収益改善に役立つ統制指標の切り口
【現役 経営コンサルタントの裏情報! No.12】
発行 2009/05/18
【目次】
1.業務分掌から見る歴史的転換期
まえがき
こんにちは 前田です!
新型インフルエンザの国内感染が新たな段階を迎えました。5月17日12時16分配信、
時事通信によれば、大阪と神戸の高校生計13人が新たに確認され、新型インフルエ
ンザへの感染が、すべて高校生で計21人になったと報道しています
◆最上の情報源はどこか
情報源としての公的機関を観測してきました。厚生労働省と国立感染症研究所
(IDSC、東京都新宿区)ですが、やはり発表が遅れますね。国立感染症研究所
からの発表には、次の一句がプラスされるようになりました
注)報告数は、WHOが発表している確定症例のその日までの累積数である。該当国
におけるサーベイランスにおける把握状況、国の対策の方針に依存するため、
この数が必ずしもその国の状況を正確に示しているとは限らない
(発表の速報性は、どうやら厚労省同様、試合放棄したみたいですね(-_-))
前回紹介のデータに、本稿記述時点のWHOサイトを追加します
update 11(2009年05月03日14:00)感染 17カ国、症例 787、死亡20
update 24(2009年05月10日15:30)感染 29カ国、症例 4379、死亡49
update 31(2009年05月17日14:00)感染 39カ国、症例 8480、死亡72
update 31では、日本の症例7のみ含みます。時間は日本時間です
状況報告と地図のURL(地図は1〜2時間後に発表)
http://www.who.int/csr/don/2009_05_17/en/index.html
http://www.who.int/csr/don/H1N1map200905017.jpg
拡大のスピードが速くなっているようです。早く何とかして欲しいですね
1.業務分掌から見る歴史的転換点
会社に所属しているからには、少なからず誰でも関係する業務分掌について、大手
住宅機器メーカーにおける例を参考にご紹介します
*業務分掌:職務分掌とも一般的にはいう。各部門ごとのそれぞれの仕事、
および部門間の関係を明示し、文書化したもの。これを職務
(業務)分掌規定と呼ぶ。従業員一人ひとりの業務内容、仕事の
位置づけが明確になる。階層別職務分掌、部門別職務分掌がある
善し悪しは別問題ですが、同社におけるやりとりは想定外のできごとでした。皆さ
んの会社ではどうなっているか一緒に考えてみてください
◆部門の基本業務書き出し
各部門の業務内容を熟知している課長・部長のかたに集まっていただき、ライン部
門を対象に、実際おこなっている基本業務を書き出していただきました。目的は、
業務改善によって追加・変更される業務の役割分担を実態に合わせて改訂するため
です
*基本業務:本来は、事業遂行に欠かせない収益をもたらす根幹となる業務を
指しています。ここでは、部門内の役割を果たすために不可欠な
業務と読み替えて抽出しています。当然のことながら、事業形態
で内容は変わります
☆営業所の一部内容(営業部ではありません。念のため)
・営業管理
予実管理、利益管理、販売先与信管理、売上計上、売上金回収
・計画策定
年度販売計画策定、月度販売見込み報告
・市場開拓
市場開拓、販売先開拓
・市場調査
市場ニーズ調査、市場ニーズ提供、CS対応、クレーム処理、
アフターサービス対応、返品処理
☆生産管理部門の一部内容
・日次生産計画策定
・日次外注計画策定
・受注受付
・受注に対する生産調整
・納期変更・キャンセル処理
・資材発注
・外注製品発注
・調達先への材料支給
◆基本業務抽出の作業概要
実際に基本業務を書き出す場合は、もう少し作業が加わります。概要は次のとおり
です
・機能表現による基本業務の書き出し
機能表現とは「○○を△△する」式に表現します。この部分の作業は、
私どもにガイドさせていただくことが必要になるでしょう
・部門横断でおこなう業務の基本業務フロー作成
あくまでも基本業務のフローであり、極力枝分かれの出てこない
レベルにまとめることがポイント
(生産の例では機能ブロック工程図が相当する。発生・決定コストの
関係が推測できればベスト)
*決定コスト:コストを実質的に決める要因
*発生コスト:支払段階で顕在化される実発生のコスト
・部門別の基本業務を中小分類への層別
既述営業所の例のとおり。機能表現を修正しています
・基本業務対応の業務分掌一覧作成
業務分掌と現状の基本業務と対比させ、不一致なものの理由を明らかにし表形
式に整理します。同時に、それぞれの業務の重要度を大中小などでのランク付
けが有効です。不一致な業務が多発するケースが多いため、理由が分かる上位
職位のかたの協力が不可欠。同時に、担当者以外にも分かるように業務の目的
を追記し、第三者の参画を仰ぎ易くします
これらの作業は、部門内の業務に精通し、何のためにおこなっているのか判断でき
るかたが中心になる必要があります。言われたからやっている業務は、基本業務で
はありません。まとめの実務は除き、作業開始の準備がされていれば半日程度で済
むでしょう
◆業務分掌と実態の食い違う背景理解
本稿では、業務分掌の作り方等は問題にしておりません。むしろ、実業務との食い
違いをどのように理解するのかに関心があります。業務分掌は、過去のある時点に
おける検討結果をまとめたものであり、マーケット環境の変化に合っているのかど
うかが問題です
◆なぜその業務分掌なのか理解必要
元々、日本の業務分掌は抽象度が高いのが特徴ですね(^-^)。これに反し、米国
の業務分掌はより具体的です。どちらがいいのかは見方が分かれるところです。
抽象度が高いとやる気があり、能力ある人を生かす方向に働くといいます。逆に、
具体的なほど能力を押さえる方向に作用することが指摘されています。文化の異な
る人々が集まって仕事をするようになればなるほど、具体的な内容になっていない
と問題も大きくなりがちです
おもしろいのは、日米の業務分掌の違いが過去に比べ接近してきているという事実
です。ビジネスの世界においては、あまり違いがなくなっている気がします
(^o^)
米国資本の日本法人においても、業務内容は抽象的な業務分掌が結構目立ちます。
とくに、米国と同様な業務はより具体的であり、日本事情がからむ物流などは抽象
度が高くなっています。起案者の事情を考えると当然かもしれませんが…
日本の労働事情は、ますます多国籍化が進んで行くでしょう。業務分掌に限らず規
則やマニュアル類もより具体化が進んでいくと思います。業務分掌を見る場合は、
内容理解と同時に、その業務は何のためにおこなうのか目的を理解をすることが欠
かせません。書いてあるからやるのではなく、何のためにやるのか理解して欲しい
からです
日米の業務分掌に対する考えかたの違いはともかくとして、同社においては小生に
とっても意外なことが分かりました
◆独特な販売予算管理
販売計画の作り方に大きな特徴が見られたのです。営業所自身で販売計画を作り、
それに対して予実績管理をおこなっているというのです。上記、基本業務では年度
販売計画策定と予実管理が相当します
多くのケースでは、営業本部から来期の目標が示され(この部分は同じ)、各営業
所が販売計画案を本部に提出。営業本部では、全体的な観点から各営業所の計画を
見直し、最終的に営業所別の販売計画を決定、予実績管理へと移行します。このよ
うに、営業所作成の販売計画に全社目標達成の観点から修正が加わることが通例で
しょう
最初、この作業を端から見ていたのですが、何か変だなあと思い尋ねてみました。
販売予算は、営業本部からの指示に基づいて営業所が起案し、本部で最終的にまと
めるのが一般的だと思うのですが、実際この通りやっているのですか…と
質問を受けられた当の営業課長いわく、その通りですよ、何かおかしいですか?
と言われます。入社以来、同じやり方で現在まで来ているようです
◆地域別の販売品種に大きなバラツキ
(小生)これだと、営業所別の新製品売上にバラツキが出ませんか?
(営業課長)そうなんです。新製品の売り上げが、ほとんどないところもあるん
ですよ。開発部門からは困っているとの声をよく耳にします。
営業所の地域性によって好みの傾向があるので、新製品が出たとしても
売りにくいものは予算に組み込むのは難しいですね。ただ、前年度を割
り込む予算は立てにくいので、売上が確保されるように新製品の採用も
考慮します
(小生)全社的な戦略製品だとしても、同じことですか?
(営業課長)それは同じことですね
(小生)うーん (-`´-)。 製品のアイテム数は競合他社に比べ、かなり多い
ですよね。ところが、営業所別に見ると、実際に販売されている数は限
られているのではないですか?
(営業課長)調べてみないとはっきりは言えませんが、全国レベルでも相当少な
いと思います。ただ、お客さまには、品揃えの多さは強みなんです
◆競合の3〜5倍多いアイテム数
同社は、業界の中でも急成長を遂げてきた企業の一つです。成長のポイントは、新
製品をいかに多く世に問うかであり社是ともなっています。結果として、製品アイ
テム数は、競合他社に比べ3〜5倍多く抱えることになりました。新製品を出すため
の開発投資も積極的です。これまでの成長戦略が、アイテム数を増やす要因になっ
ていることは間違いありません
◆売上となっていない大半のアイテム
反面、売上に寄与するアイテム数は限られています。詳細把握していませんが、他
社の実態から考え、実販売アイテム数は保有アイテム数の数%以下で売上高の70%
以上を占めていると推定します。個別営業所に至っては、全保有アイテム数のもっ
と少ない割合で売上高の大半が占められているでしょう
◆アイテム増の背景に地域密着型販売
なぜ、アイテム数を増やさざるを得なかったのでしょうか?
その要因の一つが、地域密着型の販売政策にあったと考えられます。地域特性を重
視し、売れるものを重点的に品揃えしつつ販売する政策です。営業所からみると、
地域特性に合うものが、いわゆる新製品になります。極端に言うと、合わないと考
えられるものは、営業所では新製品の対象外になってしまいます
しかし、同社の製品は住宅機器という性格から、一生に一度の購入者が大半であり、
リフォーム需要はあるものの二度三度は例外です。大半の購入者からすれば、現在
ある製品すべてが目新しく写ることを意味しています。本稿での論点ではありませ
んが、新製品を世に問う意味は一体何でしょうか
◆地域密着が業務分掌に反映
これが、結果的に販売予算のしくみを作ったことになります。営業所自身で販売予
算を作り、自身が予実績管理する独立独歩の組織です。業務分掌にある販売計画策
定と予実管理は、まさしく、この内容が反映されたものだったわけです
◆成長モデルの転換点
しかし、マーケットの成長速度が鈍るか、販売が安定すれば矛盾が生じてきます。
マーケット自体が成長しているときはいいのですが、新製品販売には固定費負担と
いう投資リスクがともないます
2005年12月22日、厚労省は、2005年の人口動態統計(年間推計)を発表しました。
出生数は前年比4万4000人減の106万7000人、死亡数は同4万8000人増の107万7000
人、差し引き1万人の自然減です。人口減少社会という大きな転換期に入ったこと
になります
成長速度が落ち込む人口減に突入したわけですが、単身者や夫婦のみの世帯は増え
ると予測されることから、世帯数は2020年頃まで増加傾向が続くと見られています
(国立社会保障・人口問題研究所 http://www.ipss.go.jp/)。いずれにしても、
需要構造に変化が起こっているわけです
昨2008年9月15日、米国のリーマン・ブラザーズ証券が連邦破産法11条(日本の民事
再生法)の適用申請で倒産。米国史上でも最大規模の倒産となる負債総額は6130億
ドル(日本円で約63兆1500億円)です。現在の景気悪化の引き金を引いてしまいま
した
頼みのリフォーム需要も期待に反し、大きく落ち込んでいます。関連業種の決算悪
化もメディアで報道されるようになりました。これから決算発表を控え、さらに実
態の深刻さが明らかになるでしょう
◆是正迫られるビジネスモデル
いずれも、住宅機器という製品において上述のことは悪材料に違いありません。
今後、どのようにすべきか大きな転換点に立っています。マーケット環境の変化に
ともなう、対応策の具体化が欠かせません。今後の方向性検討の課題として、おお
むね、次の事項が該当するでしょう
・新製品開発のあり方
マーケットの縮小前提
・高コスト体質からの脱却
新製品開発による固定費負担による売上原価アップの抑制
・収益能力を最大化するビジネスモデルのあり方
現状の経営資源を生かしつつマーケット環境の変化取り込み
・ビジネスモデルに合うしくみ構築
拡大前提のしくみからの転換
・組織改革(組織デザイン)
マーケット環境の変化を織り込んだビジネスモデルを有効化する組織
・適正アイテム数の設定
アイテム維持・収益貢献度も加えた適正アイテム数の検証と設定
◆基本業務と食い違い大きい業務分掌
基本業務抽出の作業概要の項で述べましたが「基本業務対応の業務分掌一覧」も作
成。業務分掌と現状の基本業務と対比させ、不一致なものの理由を明らかにし、表
形式に整理します
合わない項目が多いですね。合わないというのは、基本業務があって業務分掌にな
い項目、逆に基本業務はないが業務分掌にあるものという意味です。なぜ合わない
のか、上位職位のかたに理由を書き出していただきましたが、よく分からないとの
回答が圧倒的でした。本来は、部門内の業務に重要度を付けて、限られた人の資源
再配分などおこなう立場にあるかたがです
いずれテーマに採りあげるつもりですが、経営の中で縦と横のマネジメントサイク
ルがうまく回っていないようです
【編集後記】
通常、社内で決められたことを確実にこなすだけでは、上からの評価は思わしくあ
りません。書いてあること、決められたことに一工夫するのが本来の姿だという企
業が大半と思います。業務分掌でも同様のことがあり「書いてあることだけ」こな
しても個人評価が良くなることは少ないのではないでしょうか
2008年4月以降に始まる事業年度(3月決算では2009年3月期)から適用された内部統
制では、決められたことを厳格に実施することが求められていますが、日本文化と
合わない感触を持っています(^o^)
最後まで、お読みいただきありがとうございます。
今回はテーマ一つで長くなってしまいましたので、ここまでにします。
それでは、次回またお会いしましょう