収益改善に役立つ統制指標の切り口
【現役 経営コンサルタントの裏情報! No.20】
発行 2009/07/13
【目次】
1.収益力強化に役立つ企業体質
まえがき
こんにちは 前田です!
新型インフルエンザについて、5月4日の第10号から主にWHOの発表にもとづいて
報告・紹介してきました。先日、WHOが従来の発表を中止しています
元々の狙いは、報道に対する最上の情報源はどこにあるか知ることです。この点で
は、発信元としてのWHOに軍配が挙がったような気がします。やはり、情報収集
のポイントは発信元、あるいは原典に当たることが、ここでも明らかになったよう
です
この項は、今回が最終です
次の本文ですが、収益力強化に役立つ企業体質は、7月16日(木)講演会のタイトルで
す。今回は、そのさわりをまとめました。例のごとく、なるべく短めに、単号での
完結、中学生にも分かることをめざしています。やっぱり、まだまだ発展途上です
ね。長くなってしまいました m(_ _)m
(この顔文字は、mが手を表し、手をついて謝るポーズ。お願い、ごめんの意)
1.収益力強化に役立つ企業体質
収益力強化に役立つ企業体質とは何でしょうか。メーカーを例にお話しします。
【概要】
・収益力強化に向けたライン部門の業務運用
・体質強化策の一つは横のマネジメントサイクル実践
・個別改善あるいは部門最適の積み重ねでは全体最適にならない
・全体最適の取り組みが収益向上に寄与
・マネジメントサイクル実践には全体最適判断の基準不可欠
・全体最適の判断基準が統制指標
・統制機能持つ全体最適推進の組織設置が促進剤
・統制指標例紹介(工事平準化率)
◆ライン・スタッフ部門
企業には、ライン・スタッフ部門があります。ライン部門とは、モノをつくり、販
売し、直接的に収益を生み出す組織のことです。販売、生産、物流、開発部門が相
当します。スタッフ部門は、ライン部門に指示を出したり、支援する組織を言い、
人事、管理、企画部門等が該当します
◆ライン部門の体質強化が収益力強化の鍵
日常業務の中では、ライン部門が直接的に収益を生み出しています。この業務運用
を収益力強化の方向に向けることが、収益力強化に役立つ企業体質のヒントを得る
近道になるでしょう。コンサルティング実例の中から、例を取り上げたいと思いま
す。成功例よりも、失敗したような例が分かりやすいですね(^^)
実は、ここで取り上げた例などが反省材料となって、収益力強化に役立つ企業体質
への変革を、提案するようになってきたんです(^0^)
◆化学メーカーで改善余地限界の壁に当たる
化学メーカーは、典型的な装置産業です。付加価値を生み出すのは、人より設備、
熱、圧力、触媒などの割合が高いのです。これらの企業において、従来から個別改
善をしてきた結果、同じ領域内では、もうこれ以上やりようがない場面に何度も遭
遇しました
コスト改善に限界を感じたわけです。何度も熟考しました。なぜ、改善余地がない
のだろうか…。それとも、見方が間違っているのだろうか…。人が世に造り出した
ものに、改善余地がなくなることはあるのだろうか。改善余地がなくなるというこ
とは、進歩が止まることではないだろうか…と(?_?)
もちろん、現状の設備や環境条件、生産方式、顧客への納入条件など、改善対象の
外にある条件を変えることができれば改善余地はでてくるでしょう。しかし、個別
テーマの改善を目的にお手伝いしているケースでは、いわゆる与件にメスを入れる
ことは不可能でした
*与件とは、改善対象の範囲内にある条件なのですが、変更してはならない、ある
いは改善活動上で守るべき制約条件をいいます。したがって、与えられた制約条
件を守って改善活動をおこなうことになります
◆全体最適が改善余地見いだす決め手
このような経験を何度としたのち、ある大手化学メーカーSK社の生産本部長と意
見交換の機会が得られました。SK社は、京葉臨海コンビナートの中核企業です。
(本部長)生産側の領域ではコスト改善の余地は残っていないと思いますが、どう
でしょうか。まだ、余地があると思いますか。もちろん、生産設備そのものに手を
加えることは、今はできない相談ですが…
(小生)生産側管轄の範囲内だけでは、おそらくムリでしょう。ただ、こういうこ
とは考えられませんか。アイテム削減、小ロット生産品の整理、生産効率を上げら
れる生産品種の組み合わせと販促、生産効率から見た納品リードタイムの適正化、
受注締切時刻の是正、納入条件のコスト定量化、得られた生産余力による特定品の
拡販、実質的な販売計画精度の向上、限界利益の確保から見た販売品種の是正など
です。
いずれも、顧客別・販売アイテム・数量別採算が判断の前提にあります。どれも、
販売の協力なくしてはできませんが…
(本部長)確かに、そこまで踏み込めればコスト低減だけでなく、採算改善の余地
が出てくると思います。ただ、当社では、生産側から販売側にとてもものが言える
状態ではないんです。世間体に言えば、部門の壁が厚いということになるのでしょ
うか。内容は分かりますが、おそらく取り組めないでしょうね
SK社では、社内での旗振り役がいないということでした。ただ、部門最適の活動
ではやりようがなくても、部門横断の取り組みで改善余地があり得ることを確認で
きたと思います。
同時に、いきなり部門横断の全体最適に取り組むことの難しさも噛みしめたわけで
す(いっぽうで、某大手化学メーカーでは、部長が旗振り役を務め部門横断の取り
組みが実践されました。この違いは何でしょうか(?_?)。単なるボトムアップ型と
トップダウン型の違いでしょうか?)
【ここまでのまとめ】
1)企業組織には、ライン・スタッフ部門があります
2)直接的に収益を生み出すのはライン部門
3)だから、ライン部門の業務運用を収益力強化の方向に向けることが重要
4)化学メーカーでのお手伝いで、改善余地に限界を感じた悩み紹介
5)生産本部長との意見交換から、全体最適が改善余地見いだす決め手と確信
SK社生産本部長との討論で、部門横断的に取り組むと、まだ改善余地があるとの
確信が得られたと紹介しました。つぎに、個別改善では課題解決に至らず、部門
横断による取り組みとなった実例を紹介しましょう
◆設計・施工会社S社概要
S社は、電気工事を主とする設計・施工会社です。工事施工の子会社を持っていま
すが、それだけでは能力が不足し、多数の工事会社を外注で活用しています。工事
が施工されるまでの基本業務の流れは、次のとおりです
1)顧客からの相談受付、工事受注(担当:営業)
2)施工現場の調査・工事図面作成(設計)
顧客工事とは別に、自社物件の計画的な保守工事があり計画作成も担当。
実際は、パターン化された工事仕様の中から選ぶことが多い
3)資材発注(資材)
新規部品の購入単価決定、資材受入〜部品保管、払い出し。部品倉庫は、自社の
営業所に併設(20箇所、合計で部品使用量の90%を占める)
4)工事会社で工事施工(子会社、外注工事会社)
一部汎用部品の購入・保管・払い出し。工事会社の各営業所倉庫20箇所に保管、
部品全体の10%相当。外注工事会社には部品在庫なし。工事には、保守のために
おこなう計画工事、顧客からの依頼による受注工事、顧客からの依頼によるもの
であるが故障や事故などによる緊急工事に分けられます。計画・受注・緊急工事
の割合は、おおむね、40:55:5の構成
5)顧客への引き渡し
顧客へのサービス供給が開始となります
◆第1期:物流改善
物流改善の狙いは、工事部品の流れを大幅に変えることと、物流コスト低減です。
プロジェクトチームは、S社資材部門が主体となって設置。結果は、外部支払物
流費の35%低減が達成されました。部品在庫の大半は、部品メーカーからの預かり
在庫に変えています。したがって、従来は自社在庫であったのが資産勘定からなく
なったことになります。従来の物の流れは次のとおりです
部品メーカー(多数)→部品メーカーの物流拠点(一部はメーカーから部品
倉庫に直送)→各部品倉庫に分散納品・保管(40箇所、出荷は工事特殊車両に
積込み)→ 工事現場→施工
これに対し、新規の流れは次のように変更されています
部品メーカー→集中保管拠点(1箇所、部品の90%)→子会社倉庫
(20箇所、子会社倉庫での在庫保管量は極小化、出荷は工事特殊車両に積込み)
→工事現場→施工
従来は、部品メーカーからの納品を分散保管していました。それを、集中保管に変
更し部品メーカーから見た納品先・大幅削減、輸送ロット大型化、運賃低減、部品
在庫量の圧縮、S社在庫の廃止が実現したわけです。トンキロの総和が大幅に削減
されています
*トンキロ
トンキロとは輸送量の単位。1トンキロとは1トンの貨物を1km運ぶことです。
二酸化炭素の排出削減にも、一役買ったことになります。結果的に運賃が低減
しているわけです
物流改善への取り組みから運用開始に至るまで、およそ2年半を要しています。関連
する企業の多さ、集中保管拠点の設計と設置、拠点運用の物流事業者の選定、出荷
指図から工事特殊車両積込みまでの情報の流れが大幅に変わったこと、部品在庫の
管理方法立案と情報システム化など内容が多岐にわたっています
ただ、この案は最終形の運用ではなく、もう一歩進めるとさらに効率化が期待でき
ます。今回の案では、子会社倉庫の部品はあまり圧縮されていません。この部品も
集中保管拠点に取り込むのが、次の段階になります。その場合は、子会社倉庫の機
能が工事特殊車両への積替え拠点となるわけです。いわば、旧路線便のトラック
ターミナルのような機能です
子会社倉庫の部品を集中保管拠点に取り込むことにより、在庫圧縮の効果は期待で
きません。効率化の目玉は、子会社倉庫の機能が保管・出荷から積み替えに変わる
ことにあります。つまり、子会社倉庫に作業者の常時配置が不要になるからです
◆顕在化した問題点
検討途上では、種々の問題点が明らかになりました。部品点数が多過ぎる、使われ
ていない部品がある、工事量の繁閑差により工事会社の余力を生かし切れていない、
グループ全体の在庫が日々把握できないなどなどです。物流への取り組みは個別改
善ですが、設計部門など、上流工程の是正がなければ根本的解決にならないことが
顕在化しました
◆明らかになった業際間課題
種々の問題点を検討した結果、部門横断的な立場から取り組まないことには、解決
できないこともはっきりしました。いわゆる、業際間課題の存在です
*業際間課題
複数部門が協同でおこなうべき課題であり、部門横断の最適解が必要な事項を
指しています。全社の収益改善に寄与する観点から判断を求められることが多い
のも特徴です
指摘された業際間課題の主なものは、次のとおりです
部品アイテム数の削減、工事件数の平準化、工事パターンの絞り込み、工事施工エ
リアの適正化、部品の共通化・標準化、部品在庫圧縮、設計リードタイム短縮、ボ
トルネック工程の能力向上があります。主な課題のみ解説します
1)部品アイテム数の削減
部品在庫があるもの、あるいはコード登録されているアイテムから重要度の低いも
のを優先的に削減対象とします。新たに増やす場合は、その基準を明確にし増加抑
制策を遵守。決定は設計部門です
2)工事件数の平準化
計画工事と顧客依頼の受注工事を合わせ、社内工事能力をまず埋めるようにしま
す。つぎに、外部工事会社の格付けに応じた順に工事能力を埋めていきます。統制
指標は工事平準化率であり、単位指標の変化が収益におよぼす影響度をあらかじめ
算出します。計画工事は設計部門が決定。収益力強化に大きく影響する課題です
(=^^=)
*統制指標
部門最適ではなく全体最適実現のため、業際間の課題について権限を持って管理
する優位性判断の物差しを指しています。統制指標の目的は、全社収益最大化の
方向に統制することです
3)工事パターンの絞り込み
工事のパターン化は、ある程度進んでいますが、検証した結果、さらに絞り込みが
可能と分かりました。決定は設計部門です
4)工事施工エリアの適正化
工事会社の拠点から工事箇所までの移動や工事密度により、工事能力の適正エリア
是正が収益に貢献することが判明。エリア変更は設計部門起案で工事会社と協議し
て決めます
◆業際間課題の成果も得られ始める
業際間課題への取り組みは、物流改善と一部並行する形で進行。成果も見えるよう
になりました。すぐ取り組んだのは、物流改善に影響するものがあったからです。
たとえば、部品アイテム数の削減、工事件数の平準化など挙げられます。物流上は
トラックの積載率に影響します。内容が複雑ですぐ解決に至らないものもあります
が、継続的な活動とすることの社内認知が得られました
◆第2期:横のマネジメントサイクルのしくみ化
同時並行で進んでいたしくみづくりです
部品アイテム数の削減や工事件数の平準化などは、一時的に見直しても元に戻る可
能性があります。なぜなら、日常業務で常にアイテム数の増える圧力が働くこと、
工事件数は変動することが当たり前だからです。評価基準を誰にでも分かるように
すること、およびしくみとしての定着化が避けられません
そこで、問題発生の都度検討するのではなく、日常業務のしくみとして取り込むこ
とにしました。いわゆる、横のマネジメントサイクルの導入です。形としてはで
きあがりました。運用もプロジェクト活動中に試行し、ほぼ問題ないと考えられま
す。ただ、業際間の課題は、短期的に解決できるものだけではありません。毎年の
メンテナンスも必要になってきます
◆S社の文化は横断的取り組み不得手
都合の悪いことに、S社は部門横断的に取り組むことに不得意な文化のようです。
とくに、設計部門の発言力は強く、ほかの部門が口出しできないと聞いておりま
す。プロジェクト活動中には、一種の強制力も働き軌道修正に応じるでしょうが、
活動終了とともに熱意が冷め、いつしか元に戻ることが懸念されます
◆心配事は統制機能持つ推進組織がないこと
S社の例は、個別改善では課題解決に至らず部門横断の取り組みとなった例です。
プロジェクト活動が終了し3年経ちました。その後の動向は把握しておりませんが、
S社は会社設立から約60年の歴史があります。3年程度の活動で、舵が切れたのか心
配です(^0_0^)。
もう一つの心配事があります。部門横断的に取り組むための推進組織がないことで
す。プロジェクト期間中には、資材部門が事務局的に機能していました。日常業務
となれば、調整ではなく権限を持って管理する統制機能が必要と懸念されるからで
す
編集後記
今回のまとめです
企業の中で直接的に収益を生み出すのはライン部門です。そこで、ライン部門の業
務運用を収益力強化の方向に向けることが関心事となります
従来、いろいろなテーマの個別改善や部門最適の課題でお手伝いしてきました。し
かし、同様のテーマでは、改善に限界を感じていたのも実態です。そんな中、大手
化学メーカーSK社の生産本部長と意見交換の機会があり、全体最適の取り組みが
改善余地を見出す決め手との確信が得られたわけです
私どもは、お客さまから教えられることが実は多いのです。普段そんなことはあま
り言いませんが(^-^)、感謝しているんですm(_ _)m
個別改善からお手伝いを始め、業際間課題が明らかになった設計・施工会社S社の
場合は、横のマネジメントサイクルをしくみ化することになりました。業際間課題
についても、成果が得られています
本文では触れませんでしたが、マネジメントサイクルのしくみ化は運用業務フロー
作成、運用ルールの明確化としてまとめています。ただ、運用主体となる組織の設
置はされておりませんので、日常業務に移行後の組織間の役割分担は必ずしも明確
になっていないところがあります
くわえて、心配事があります。
・S社の文化は横断的取り組み不得手
・PJ活動は3年。対し、S社には60年の歴史あり
・統制機能持つ推進組織がありません(−`´−)うーん
・人事異動がかなり頻繁に実施されます(3〜5年周期)
収益力強化に役立つ企業体質の一つとして、横のマネジメントサイクル実践を紹介
しました。ほんの少しだけ、本文で触れましたが、横のマネジメントサイクル実践
には全体最適を判断する統制指標(本文では工事平準化率に言及)の存在が必要
です
【統制指標例】
工事平準化率=Σ(日別工事処理件数)÷Σ(日別工事処理能力件数)×100
*工事件数は子会社を対象に算出
*子会社の工事能力が活用されている割合を指標化しています。式を見れば分かる
とおり、工事平準化率を上げようとすれば、工事の平準化を進める以外にありま
せん。つまり、工事費の外部流出を抑制する意味もあります
最後までお読みいただきありがとうございます(^▽^)
それでは、次回またお会いしましょう