収益改善に役立つ統制指標の切り口
【現役 経営コンサルタントの裏情報!】
発行 2009/11/09 No.36
【目次】
1.化学メーカー事業部の体質改善
まえがき
こんにちは 前田です!
無料相談会を設けるつもりで準備を進めている旨、これまでも紹介してきました。
その事例を紹介するつもりで、今回も望んでいます。前から準備していた話題を書
くつもりでしたが、たまたま縦と横のマネジメントサイクルと体質改善の例に遭遇
し、急きょ内容を変更しました(=^^=)
以下にご紹介の内容は、実は想定外のできごとです。相談を受ける想定での面談で
はなく、ご挨拶プラスアルファのつもりでの訪問を当初想定していたことによりま
す。結果として、想定外の話題での意見交換となりました。「お悩み度」は高いと
思われます。解決したい課題は異なることが多いのですが、今回テーマの「体質改
善」は、多くの企業における今時の関心事かもしれません(>_<)
1.化学メーカー事業部の体質改善
◆大手化学メーカー、副社長との意見交換
先日、大手化学メーカーの副社長とお話しの機会がありました。当社は、日本でも
数少ない石油・石炭化学の両分野を背景に、独自技術の高度化による製品開発で伸
びてきたメーカーです(業界では、白モノ・黒モノと呼ばれます。家電業界におけ
る冷蔵庫などの白物、ゲーム機など娯楽物家電の黒物とは違います)
従来からの素材供給にとどまらず、付加価値を増すため、素材や技術を生かした分
野への進出も指向されています。売上高は3000億円弱です
◆話題の中心は電子部品事業
近年著しい成長が見られる、素材技術応用の電子部品事業について話題が集中しま
した。同分野への参入は、比較的日が浅く約10年とのことです。ところが、携帯電
話など末端製品の高機能・高信頼性化が進むにつれ、組み込み部品に要求される耐
熱性、機械特性、電機特性などの要求性能も高度化しています(^0^)
◆右肩上がりに暗雲か
このようなマーケット環境の変化も、当社の電子部品事業を大きく飛躍させたきっ
かけの一つでしょう。ところが、製品機能の高度化にともない、従来の特殊用途か
ら一般製品にも採用される傾向が強まっています。つまり、特殊用途としての部品
から、汎用品化し始めているということです。部品の量も増えますが、世の一般的
傾向として、価格も下降線をたどる運命になります。同時に、競合先出現も皆無で
はないでしょうし、部品性能の優位性も減少化の可能性大です
このさなか、昨2008年9月15日、リーマンブラザーズは連邦倒産法の適用を連邦裁判
所に申請し、事実上倒産しました。いわゆる、リーマンショックです。需要が一気
に半減し、今だ回復にいたっていません。結果として、やるべきことが鮮明になっ
ています(^-^)
◆マーケット対応力強化が課題
副社長との意見交換から、今後も右肩上がりの地位を築くためのマーケット対応に
は、次の課題解決が必要と推察します(∩_∩)
・短納期対応の強化
・基準売価の低落対応強化
・将来的な量供給の保証
・競合想定の技術的な差別化推進
◆副社長との意見交換
反面、問題は多いようです。以下、副社長と小生の意見交換の一部です
副社長:今までは、まさに右肩上がりに伸びてきました。大きな収益源だったわけ
です。前段で申し上げたとおり、これだけ売上が落ちるのは初めてです。しか
し、今後は販売回復も視野に入れ、変化を先取りできる体制づくりが急務です
小生:主要な問題は何ですか(?_?)
副社長:それがよく分からないんです。営業とか、製造からはいろいろな問題が出
されてきます。あれもこれも問題だというのですが、要となるポイントと、ど
れから手をつけていけばいいのか分かっていません
小生:今まで、そのことについて検討されたことは(?_?)
副社長:昨年、社内でプロジェクトを立ち上げました。本人自ら問題解決をしたい
と手を挙げた担当者をリーダーに任命し、取り組んだんです
小生:うまくいかなかったのですか(?_?)
副社長:そうです。問題点はいろいろ指摘されています。その解決策も、それぞれ
の部門で、かなり細かく詰めていたようです。しかし、全体としてみれば、一
向に良くなった感がありません。真の問題点は何で、どんな風に進めれば良く
なるのか、まだ分かっていません
小生:たとえば、どのように解決策を議論されていたのですか(?_?)
副社長:担当者から話させればいいのですが、同席していませんので私の感じてい
る内容についてお話ししましょう。お客さまからの飛び込み注文があり、それ
に対してどうするかという例を挙げます
生産リードタイムの関係から、製造は基本的に見込生産ですが、生産日程計画
を精査し納期遵守の案を作っています。会議の場でも、割り込みに対する対応
策を詳細に報告しているようです。営業に対し、もっと早く客先の動向把握を
促したいと言いたいみたいですね。製造としては、これが最適解と考えている
ようです
営業は、飛び込みの影響を極力緩和するため、お客さまとの納期調整など、や
はり事細かに関係者と合意を図っています。製造に対しては、もっと対応力を
上げるよう物を言いたいようです
しかし、営業と製造のソリが合わないですね。営業の販売計画を製造は信用し
ていないし、営業は製造が思うにように造ってくれないと考えているのが良く
分かります
何が問題なんでしょうね(?_?)
小生:営業全部を製造から悪者扱いしているとは思いませんが、中には、製造の事
情も考慮に入れつつ、お客さまと事前に調整している営業のかたもいるのでは
ないでしょうか(?_?)
こんな調子で、約1時間あっという間に過ぎてしまいました。その後の予定が双方に
あったこともあり結論は先送りです。全体をまとめると、次のようになります
◆副社長との意見交換まとめ
・営業と製造の現状に対する実態認識が微妙に異なっていると推定
・とくに、マーケット環境の変化のとらえ方が不一致
・会議や報告などの発言から、個々には細かく、それなりに一所懸命やっている
(個々の部門では良くやっているようだ)
・ところが、全体としてみれば、お世辞にもうまくいっているとは言えない
(とくに、需給調整)
・何が真の問題なのか分からない
・どうすればいいのか進めかたと着地点が不明確
・部門間での判断基準が違う
・営業と製造はソリが合わない
(互いにある種の不信感が見られる)
・一度味わった我が世の春を変えることは難しい
(過去の右肩上がりの時代認識)
・収益という観点では議論していない
◆課題解決の進めかたは(?_?)
どのように進めるべきかとの副社長の問に、次のように小生は答えています
(当日は時間切れのため、一部ここでプラスしています)
1.部門の実態を、自部門だけでなく他部門から見ても同様の理解となるように把握
する。結果として、同じ土俵に立てることが狙い(=問題認識の共有化)
2.マーケット環境を関係者一同が同一認識に立てること
マーケットに対しての強み弱み分析、コアコンピタンス分析なども利用し、現状
と今後のマーケット動向を調査する(=問題認識の共有化)
3.今後の方向性をどうするかという視点で課題抽出をおこなう。重要な点は、ある
べき姿の構想共有と実態の正しい認識を前提とすること(=課題抽出)
4.最優先で取り組む重要度判断は、全社の収益改善に資する立場からおこなうこと
をトップ方針として明示する(=課題の評価基準)
5.対策立案は、タタキ台の段階から各部門のキーマンに自ら鉛筆をなめながらまと
めてもらうこと。また、タタキ台検討も複数の関連部門キーマン出席を得ておこ
なうことが必須(=相手の立場への理解促進、根回しと課題の共有化)
6.悪者を作るのではなく、いいところを生かす方向で議論する
(=限界への挑戦、相手への思いやり、相手立場の理解)
◆進めかたにある背景理解
当日の副社長のお話を伺った限りでは、部門間のコミュニケーションがうまく取れていないと感じています。結果として、部門内の課題解決はうまくいっても、複数部門全体での最適解追求が必要な課題は放置されがちなのではないでしょうか
複数部門間のコミュニケーションがうまく取れていないということは、言葉を代えて言うなら、横のマネジメントサイクルが回っていないことを指しています。一般的にみてですが、横のマネジメントサイクルが回っていない場合は、縦のマネジメントサイクルも回っていないことが多いものです
当社のケースでは、新製品の上市後から右肩上がりの伸びを見せ、それが当たり前になってしまったのではないでしょうか。マーケットが変化を見せ始めてきたこと、リーマンショックによる売上数量が落ち込んだことで、従来は問題とされていなかった部分が、ようやく顕在化してきたものと推定します。それだけに、従来のいわば習慣化した風土の体質改善が本来のテーマと受けとめています(^−^)
*用語「マネジメントサイクル」
PDCAを回すことであり「管理する」ことと同義。マネジメントサイクルの狙
いは、管理水準の効率的な維持と向上をはかることにある。実運用開始になって
からは、語句の順番と同じ、P→D→C→Aよりも、C→A→P→Dの順番にし
たほうが分かりやすく実用的である
*用語「縦のマネジメントサイクル」
経営戦略やトップ指示事項の検証と軌道修正のツールとしても有用であり、経営
層と実務層とのPDCAを回す管理の実践を指す
*用語「横のマネジメントサイクル」
部門間にある業際間課題の処理が順調なのか検証するツールとしても有用であ
り、複数部門にまたがる課題にPDCAを回す管理の実践を指す
◆PJチーム編成案は(?_?)
副社長から課題解決に取り組むとすれば、どんなチーム編成がいいのか質問があり、
次のように小生から答えています
・リーダーは、目標達成されれば一番得する人
(昇進、ボーナス、部門成績、業績評価等の面から)
・プロジェクトの成功は、リーダーあるいは事務局が燃えることができるかに掛
かっている。そこで、課題に没頭できるかたが是非とも就任すべき
・チームメンバーも、課題解決に集中できるかた
・チームメンバーは、課題解決に関わる部門から見て「あの人が言うのならしょう
がない。協力せざるを得ないなあ」と思わせられる人
・私どものひと言に十言ってくれる人
このように申し上げましたら、しばらく考え「いないなあ」のひと言。だけど、や
らなければ前に進まないから考えましょうと、当日は締めくくっています
◆体質改善が最大の課題
ご相談に対する、小生の所感を述べます
副社長の立場からすると、一事業部の日常業務に立ち入るところまでは把握しきれ
ないというのが実態だと思います。しかも、各部門レベルでは一所懸命やっている
のは分かるが、全体としてマーケット動向に遅れがちな点が、今後の事業進展への
不安感となっているのが現実です。このことも、昨年のプロジェクト起ち上げの動
機であったと考えます
副社長との意見交換から得られた感触では、体質改善が急務の課題と受けとめまし
た。体質改善とは、マーケット環境の変化に即応できることを指しています。一般
に、メーカーでマーケット環境の変化を一番感じやすいのは、まず企業のトップ層
です。収益の落ち込みに、自らの首が掛かってくることが影響しているでしょう。
次に、営業の部長クラス以上、一番遅れるのが製造部門です。体質改善には、やや
時間を要するのが難点ですが、トップの強いリーダーシップと習慣化までの継続が
成功のキーと信じて疑いません (^^)♂♂
編集後記
副社長にお会いするのは、今回が初めてです。応接室に現れた風貌からすれば、相
手に警戒感を与える印象はさらさらなく、ネクタイのワイシャツ側に接した部分が
裏返しになって表にはみ出し、一見無頓着な風でした(=^^=)
しかし、お話しが進むうちに、質問のしかたが独特なことに気がついたのです。
目的は?とは言わないのですが、明らかにこちらの話の目的を頻繁に問うてきます
m(_ _)m
副社長殿は恐ろしいくらい頭の切れるかたです。あとで疲れが出てきました
(∩_∩)
最後までお読みいただきありがとうございます m(_ _)m
それでは、次回またお会いしましょう(^.^/)))~~~bye!!