収益改善に役立つ統制指標の切り口
【現役 経営コンサルタントの裏情報! No.6】
発行 2009/04/06
【目次】
1.物流決定コストを知る その3
2.管理技術SCMの定着化めざす
1.物流決定コストを知る その3
こんにちは 前田です!
物流費の3回目となります。メルマガNo.3「物流費の低減余地ある企業急減」では、
物流費が下がりにくい理由を紹介。同No.5「物流費が下がらないことへの対処策
は?」では、今後採るべき方向性に重点を置いてお話ししました。物流費が下がり
にくい理由と対策について述べさせていただいたわけです
物流費が下がりにくい背景に、どんな事情があるのか疑問に感じられたかたも多い
と思います。これまでと違う角度から、今回は見ることにしましょう
◆物流コストの大半は管理不能費
早稲田大学名誉教授の西沢脩氏が、物流氷山説(物流コスト氷山説)を発表された
のは、昭和52年頃(1977)でした。外部支払物流費のほかに、企業内には顕在化さ
れていない物流費が、ほぼ外部支払物流費並みにあると言われた時期です
以来、日本の産業界で物流が注目を浴びるようになり、各社の物流コスト低減も大
いに進みました。いっぽうで、限界も見られるようになったわけです。結論から申
し上げます、物流部門から見た物流コストには、管理不能部分が多くを占める実態
があります
◆輸送費の多くは管理不能費
輸送費を例に採ります。工場所在地が東京、販売地区が北海道のメーカーと想定。
受注締切時刻は当日のお昼12時、主要客先は札幌に集中し、お届けは翌日中におこ
なう必要があります。したがって、物流サービスの一つ、納品リードタイムは1日で
す。製品の運賃負担力が小さいことから航空輸送ではなく、JRコンテナあるいは
トラックの利用とします
当然ながら、受注後に工場から出荷したのでは客先へのお届けが間に合いません。
そこで、札幌市白石区の近辺に営業倉庫を確保し在庫を持つことにします。白石地
区は、従来、物流関係の集積地として知られたところです。東京・札幌間の在庫補
充の輸送リードタイム、休日、販売変動などを考慮し、品切れを起こさないよう1週
間分の在庫を置くことにします
納品リードタイムが1日のケースでは、上述のとおりです。仮に、この納品リードタ
イムが1週間に延ばすことができたらどうなるでしょうか。よほどのことがない限り、
札幌に倉庫を置く必要がなくなります。旧路線便(特積み)による出荷ができるか
らです。工場から客先までの輸送コストも、一定物量以下では節約可能となります
しかし、物流部門の権限では、納品リードタイムを変えることは通常できません。
客先要望、競合他社のサービス水準、販売政策などの結果として、納品リードタイ
ムが設定されるからです。物流部門から見た輸送コストは、大半が管理不能費とな
る背景がここにあります
◆保管費の多くも管理不能費
この例をもとに、保管費についても考えてみましょう。納品リードタイムが1日の
ケースでは、札幌に設置した倉庫の保管費が発生します。納品リードタイムが変わ
らない限り、保管費はなくなりません。いわば固定費です。納品リードタイムが1週
間になったとしたら、既述のとおり、札幌に倉庫を置く必要はなくなります。当然、
保管費も発生しません
◆在庫も納品リードタイムで決まる
前述の例からお分かりのように、納品リードタイムが1週間のときは、同リードタイ
ム1日に比べ、ほぼ1週間分の在庫が不要となります
◆物流費は発生コスト
輸送・保管、および在庫に関わるコストも、納品リードタイムの長短によって結果
的に多くのコストが決まってしまいます。物流費を決めるのは、納品リードタイム
を含む物流サービスです。物流サービスには、納品リードタイム以外に、納品時の
時間指定・検品などあります
◆決定コストを知る
それでは、物流サービスを決めているのは何でしょうか。意識するしないにかかわ
らず、販売政策です。まとめて言うなら、物流費を決めているのは物流サービスで
あり、物流サービスを決めているのは販売政策なのです。この例では、物流費を発
生コストといい、物流サービスおよび販売政策を決定コストといいます。物流費の
決定コストと発生コストの関係を知ることが、管理不能費を管理可能費に転換させ
るキーなのです
◆物流部門自身による抜本策立案の困難さ
私どもが、これまでお手伝いしてきた物流あるいはロジスティクス先進企業では、
物流費の9割以上が管理不能費となっています。この流れが、5年以上前から企業に
おける物流部門の廃止となって現れて来たわけです。皆様方の企業では、どのよう
になっているのでしょうか
2.管理技術としてのSCM定着化めざして
サプライチェーン(Supply Chain、供給連鎖)とは、供給者から消費者に至る一連
の業務の流れを指しています。一連の業務には、原材料・部品の調達、製造、配送、
販売という物の流れに関するすべての領域を含みます。サプライチェーン・マネジ
メント(SCM,Supply Chain Management,供給連鎖管理)は、サプライチェーン
全体の最適化と最終の顧客満足を高めようとする経営管理思想を元々めざしていま
した。しかし、SCM固有の技術と呼ばれるものは、今だに見られません。SCM
は、あくまでも経営管理思想であり定義も種々あります
小生は、SCMを次のように捉えています
◆サプライチェーン対象業務
SCMが、サプライチェーン全体の最適化と最終の顧客満足を高めようとすること
は同意見です。むしろ、サプライチェーンの中身をもう少し細かく捉え、企業内業
務の連鎖に着目しています。メーカーを対象とした業務では、販売、生産、物流の
ライン部門が相当します。一般に、研究開発もライン部門に含むのですが、実需に
は直接関与しません。そこで、SCの業務統制対象から除外しています。ライン部
門は、モノを作り、販売し、直接的に収益を生み出します。一方、ライン部門を支
援するスタッフ部門も、実需とは直接関連しないので統制対象外です
◆企業収益を直接産み出すのはライン部門
サプライチェーンを構成する各企業の収益力は、ライン業務運用の良し悪しに大き
く依存しています。たとえば、顧客の要請に応じ小ロット生産を頻発させたとした
ら、生産効率はいちじるしく落ち、結果的に製造原価上昇と生産量の低下を招いて
しまいます
◆収益確保の評価基準(統制指標)
そこで、企業収益確保に不可欠な販売、生産の部門が守るべき評価基準(統制指標)
をまず設定します。たとえば、販売における原単位流通量(売上高=費用となる製
品群の短期間での損益分岐点数量)や、生産の限界生産量(生産コスト回収に必要
な生産量)です。しかし、販売と生産はトレードオフの関係も多く見られます。売
上増に貢献しようとアイテムを増やすと、小ロット化を招き生産効率を落とすこと
などが該当します
◆統制指標に至った背景
一方の指標が満足されることで、収益向上への寄与を判断することは意外に難しい
のです。そのため、部門間のトレードオフを調整し、結果的に全社収益最大となる
方策の評価基準明確化が欠かせません
業際間で発生する業務のつながり、いわゆる業務連鎖の糸を解きほぐし業際統制の
基準となる意味で統制指標と呼ぶことにしました。統制指標の明確化により、部分
最適にとどまらず複数部門や企業全体、あるいはグループ企業としての最適化追求
の物差しが得られることになります
◆日本企業へのSCM定着化めざして
これまでは企業あるいは企業グループ内でのサプライチェーンを対象としてお話し
してきましたが、グループ外の企業を含むサプライチェーン全体のケースにおいて
は、どのようになるでしょうか。対象範囲が拡大しても同様の考えかたと方法で、
企業あるいは企業グループの統制指標ができますので、サプライチェーン相互の利
害調整もよりしやすくなります。環境は変化し経営管理技術も進化していきます。
現時点では、まだまだ思想としての意味合いの強いSCMですが、今後、統制指標
がSCMの固有技術と認知される実績づくりに貢献したいと考えております。
これが、日本における管理技術としてのSCM定着の道筋と信じて疑いません
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回またお会いしましょう