収益改善に役立つ統制指標の切り口
【現役 経営コンサルタントの裏情報!】
発行 2010/03/08 No.50
【目次】
1.クレームとリコール
まえがき
こんにちは 前田です!
早いものです。本メルマガも50号を数えます。創刊号は、昨2009年3月7日で、満1年
が過ぎました。元々、書くことに抵抗は少ないのですが、ほぼ毎週となるとそうと
ばかり言ってられない事態もたびたび発生します。まあ、だけど何とかなるもので
す。一歩踏み出すか、留まるかの微妙な差だけのような気がします。つたない文章
を読んでいただいている皆さまに感謝、感謝です \(◎o◎)/!
さて、今回のテーマは今様の自動車のリコール問題に始まり、ここに至る過程で起
こっているクレーム対応について述べることにします。いきなり、何の前触れもな
くリコールされることはほとんどありません。まず、お客さまからのクレームが発
生し、事態の重大さに気付いたのち、リコールとなることが大半です
しかし、リコールに至る前のクレーム発生段階で素早く手が打てれば、事はもっと
軽く済むことが明白です。なぜ、放置されるのでしょうか。小生なりの考えかたで
事の真相に迫りたいと思います。対策に責任を持つ組織を作るだけでは、問題解決
になり得ないことは明白です。責任転嫁に終わりかねません
ご意見ありましたら、次のメールアドレス宛に投稿を歓迎します m(_ _)m
投稿メールアドレス 285719@jimosen.com
1.クレームとリコール
◆リコールとは
そもそもリコールとは、設計・製造上で製品の欠陥が判明した場合、無償修理・交
換・返金などをすることです。法令に基づく場合と、メーカーあるいは販売会社の
自主的リコールがあります。リコールでは、ユーザーが不具合を感じていなくとも
対策が打たれるわけです
我が家の実態から紹介します。最近3件ありました (∩_∩)
◆我が家のリコール1 水洗トイレ
一つ目は、昨2009年10月のことです。水洗トイレの上に付いている手洗い金具から
水が突然出なくなってしまいました。7年ほど前に設置しています。タンクに水が溜
まるまで時間が掛かるようになってしまいました。取扱説明書を見ながら点検箇所
のチェックを開始。パッキン交換が必要だろうことは分かりましたが、専用工具が
ないと手に負えません。ありふれた工具で修理できるようにするのも、設計の役割
と思うのですが…。メーカーにとうとう連絡。その日のうちに修理完了です
案の定、パッキン交換でした。ただ、工事業者いわく、メーカーからほかのパッキ
ンも問題があるので交換するよう言われているとのこと。水タンクと便器の間にあ
る大きなパッキンです。手際は良く、対応もとくに問題あるわけではありませんが、
同じメーカーのもう一つの水洗トイレは、これより長い間使っているのに何ともな
いんです。品質が悪くなったのではないかとも考えられます。技術的に枯れた製品
を使うのが一番かもしれません。このケースは、メーカーの自主的リコールです
(>_<)
◆我が家のリコール2 浴室暖房・乾燥機
二つ目は、ユニットバスに組み込まれている浴室暖房・乾燥機の配線ミスの可能性
です。何でも、工事施工時の配線方法で漏電しかねないとのこと。多分、どこかで
事故が発生したのでしょう。後日、第三者の点検では何ともありませんでした。メ
ーカーの自主的リコールだったようです (^o^)
◆我が家のリコール3 冷蔵庫
三つ目は、先月末のことです。冷蔵庫メーカーから電話がありました。約10年前に
購入した冷蔵庫ですが、庫内にこぼした液体が漏れ出てコネクタ部分にかかると、
ごく稀に端子がショートして発火の可能性ありとのことです。数日後、大丈夫との
点検結果でした。これは、経産省に届け出た法令によるリコールで、改修作業の進
捗が悪く事故が相次いでいるとしてメーカーに改修体制強化の指導がされているよ
うです (^∧^)
◆リコールとクレームの違い
詳しくは冒頭で紹介しましたが、リコールは製品の欠陥に対策を打つことです。こ
れはメーカーが公表し、ユーザーに不具合を伝え、問題が起きていなくても対策が
取られます。ユーザーすべてが対象です
クレームは苦情です。ただ、お客さまの愛のある要望と解すべきというかたもおり
ますが…。問題が出てしまったリコールも含みますが、ユーザー自身が気付いて申
し出るものです。したがって、苦情を言ってきたユーザーにだけ対策をとります
以前から気になっていたのですが、日本語で言う苦情の意味でのクレームは和製英
語だと思います。英語ではちょっと違っています (^0^)
英語でクレームをつけるに相当するのは「complain」になるでしょう。それでは、
クレームをつける(claim)は何かというと、日本語では「主張する、要求する」に
相当します。リコールする(recall)は、日本語で「呼び戻す」とか「回収する」
です。こっちはまともな使い方になっています (∩_∩)
◆車のリコール問題
最近、フロアマット、アクセルペダルなど車のリコール問題が多く採りあげられて
います。メディアでは、トヨタの問題が多いようですが、どうもそれだけではなさ
そうです。米運輸省道路交通安全局(NHTSA)によれば、2004〜2009年の米国
政府に寄せられた苦情件数を紹介します
フォード 2,806件
トヨタ 2,515件
GM 1,192件
米国では、トヨタの急加速問題が多く採りあげられています。しかし、この件でも
2008年以降フォードへの苦情件数のほうが実際は多いようです。トヨタ自動車の
豊田章男社長は、2月24日(日本時間25日)米議会公聴会で謝罪しました
続いて、同社長は3月1日、中国・北京でリコール問題の記者会見をし「全世界のリ
コール問題で中国の皆様にご心配とご迷惑をかけていることを心からおわびする」
と陳謝したと報じられています
◆他メーカーもリコール届け出
2月25日、以下の自動車3社がリコールを国土交通省に届け出ています。スズキがエ
アコンの不具合で43万台、日産自動車がエンジンの電気配線端子で約7.6万台、ダイ
ハツがエアバックの不具合で約6万台です
リコールとクレームは違いますが、リコールの裏には多くのクレーム発生があった
結果と思われます。メディアに登場する一連の経緯を見れば明らかです
◆松下電器製石油ファンヒーター
記憶されているかたも多いのではないでしょうか。しばらくの間、同社はCMの代
わりに5万円で製品買取のお知らせを流し続けました。1985〜1992年まで、FF式石油
温風暖房機が約15万台販売されたとのことです
2005年1月、この松下電器製石油ファンヒーターを使っていた福島県のペンション宿
泊客が、一酸化炭素中毒で死亡事故発生。その後も、同様な事故が発生し、同年11
月には再度、死亡事故が発生しました (>_<)
同社は、2005年4月21日、ゴム製ホースを銅製に交換するリコールを発表。自主回収
等を開始。不幸にも、改修済みの機器で事故が発生し、結果的に全数回収に踏み切
りました。これが1台5万円というわけです。2007年5月末現在で回収率は70%余り、
費用は249億円に達していると報告されています。リコールは、企業の信用・技術・
品質に関わるほか、経済的負担も大きいのです (^∧^)
この事故を教訓に同社は、電子レンジ、冷凍冷蔵庫、衣類乾燥機の計300万台を超え
る大規模な製品の無料回収・部品交換を発表。部品交換対象の製品は、いずれも生
産を終了させました。教訓とは、長期使用時の部品劣化による最悪場面を想定した
設計の必要もあったとしています。飛行機などによく見られるフェイルセーフ(fail
safe)の設計思想です。この件は、経年劣化と製品寿命の関係などの議論も引き起
こしました
国レベルでは、2007年11月、消費生活用製品安全法(消安法)が改正され、石油温
風暖房機、瞬間湯沸し器、風呂がま、石油給湯器、電機食器洗い乾燥機、浴室用電
機乾燥機の9品目を、「製品寿命」の表示や「点検通知」のメーカーへの義務付けが
されました
実に考えさせられたリコール問題です。それにしても、松下電器という教訓的な前
例があるのに、いっぽうでは釈明し回っている自動車メーカーが誠に対照的です
(>_<)
◆クレーム段階での対策
我が家、車、ヒーターとリコールの例を挙げてきました。我が家の場合はともかく、
車とヒーターの違いは大きいと思います。リコールの前段で発生していたであろう
クレーム段階で、なぜ手を打てなかったのでしょうか
◆昔はクレームが少なかったの声
良く耳にするのが、昔はクレームが少なかった。あっても、すぐ対応できた。再発
することも、ほとんどなかったと…。それでは、どんな対応をしていたのかお尋ね
すると、おおむね次のような答えが返ってきます (=^^=)
車とは関係ありませんが、某技術部長の弁です
自分は設計が専門だけど、入社後は現場で1年間、その後、生産管理部門を経てよう
やく設計に配属。慣れてきたら営業所に転勤。当時、お客さまからクレームがある
と、どこに問題があるのかおおよそ想定できた。そこで、工場の実質担当者に直接
連絡を入れ、手を打ってもらったこともある。自分も現在は技術部門の責任者になっ
ているが、最近は生産と営業の人事交流は皆無だ。これでは、営業から工場の中を
理解しろと言っても無理だろう…。逆も同じだろうけど…。創業した先代社長は、
技術畑で話が通じた。現社長は営業出身で、品質といっても本当に分かっているの
か疑問なところもあると (∩_∩)
ここで紹介した内容は、車とは違いますが、実際の典型例です。車メーカーでも同
じ歴史があったのではないでしょうか
◆クレーム対応は企業発展の原動力
クレームゼロは、元々無理と小生は考えています。ユーザーの要求すべてを最初か
ら満たすことは、開発コスト無限大と同じことです。それにもまして、実際のユー
ザーは、こちらの想定以外の使い方をしていることもあります。これが、マイナー
チェンジ型製品開発のきっかけの一つです
だいぶ前の話ですが、写真製版用のシートをロッキード社が買い付けていたことが
あります。たまたま、このシートメーカーでお手伝いしていたときのことです。飛
行機に使うはずがないと思い、メーカー側で調べてみました。そうしたら、機内に
取り付けるトイレユニットと床の間に微妙な隙間が生じ、異物の侵入を防ぐため間
を埋めるものを探していたとのことです。それが、ちょうど当メーカーのシートで
した。これは例外かもしれませんが、設計者の意図しない用途に使われることもあ
ります。良い設計は意図した機能を発揮させ、かつ、その機能だけを発揮させるこ
とです (●^o^●)
ユーザーも製品を使用してみないことには、善し悪しや使い勝手を判断できないこ
とは明らかでしょう。それなら、メーカーの対応は良きユーザー相手に、製品機能
進化のしくみを作ることが、より重要なのではないでしょうか。このように考える
と、クレーム処理のしくみは企業発展の重要な原動力になりうると言えます
前述の「クレームは苦情ですが、お客さまの愛のある要望とも解すべき」ことにな
るわけです。立場を変えると、買う側の立場からも見ることができます。つまり、
すぐれた購買担当者は調達先を育てるのがうまいことです
そうは言っても、クレームは少ないに越したことはありません。苦情を聴いてから
手を打つ事後管理から、苦情を察して事前に根源を絶つ事前管理がより好ましいわ
けです。順を追って見ていきます。まず、クレームが減少しにくい要因をまとめて
みましょう
◆クレームが減少しにくい要因
前述の、昔はクレームが少なかった例に端的に表れていますが、次のように整理で
きます
・品質保証部門の責任とする
各企業のクレーム処理の責任部署は、品質保証部門とすることが一般的です。そ
うでない場合は、実態に応じた部門を想定してください。品質保証部門があって
も、クレームが減少しない例は数多くあります。権限だけあっても、やるべきこ
とが分からないためです。担当部署を設置してもそれだけでは問題解決にはなり
ません
・クレームの真因追求困難
真因と推定される部分が、クレーム受け付け担当では専門的過ぎ理解できないこ
とが背景です。企業の部署が専門領域に分化し過ぎ、もっと端的に言うなら、全
体を知る人が少なくなってきたことがあります
・過去の成功体験にあぐらをかく風潮
とくに、各分野のトップ企業に多く見られる体質で、自社規格がディファクトス
タンダード、あるいはそれに準じる場合が多いようです。ディファクトスタンダ
ードとは、国際機関や標準化団体による公的標準ではなく、マーケットで事実上
の標準とみなされる規格・製品を指しています。このような企業で発生するクレ
ームは、過去の成功体験の上にあぐらをかく風潮が見られることです。例を挙げ
ます
ゝ顧客からのクレームをわがままと捉える
ゝユーザーの使い方が悪いとする傾向が強い
ゝ間違った使い方をしていると理解
ゝ使い方にもっと習熟すべきと言う体質
考え違いをしてはいけません。品質は、基本的にユーザーが決めるものです。
これらの例は、ユーザーの声を素直に聴けなくなる危険信号と言わねばなりませ
ん (>_<)
・技術・設計の責任は、製品を造ったら終わりと捉える
極端に言うと、工場から製品が出ていった時点で、自分の業務は終了したという
ことが該当します。設計の目的は、顧客に製品を提供し、効用と満足を味わって
いただくことです。製品提供で部門の業務は終了しても、本来の役割は完了して
いません
・クレーム対応のコントロール不足
専門領域に分化した各部門をクレーム対応という一つの目的に対して、実質的に
コントロールできる業務機能が不足しています
◆クレーム削減対応
それでは、どうするべきでしょうか
・品質はお客さまが決める
品質はお客さまが本来決めるもの、という基本認識に立ち返ることです。成功体
験が長く続く企業では、意外にそうなっていません。お客さまが求めるのは製品
そのものでなく、使って得られる効用と満足であることを忘れてはなりません
・設計・技術・生産の本来目的を理解する
業務分掌には、各部門の役割が規定されているでしょう。しかし、設計を例に言
うと、図面を書いて設計の役割が終わるわけではありません。業務分掌上の役割
を果たしていてもです。設計本来の目的は、お客さまに効用と満足を味わってい
ただくことにあります。技術・生産も同様です
・クレームは業際間課題
クレーム対応は、複数の部門にまたがる業際間課題です。組織巨大化が部門の専
門特化を促し、全体を分かるかたが少なくなったことが大きく影響しています。
企業の成長が、ビジネスモデルを変えることを理解すべきです。たとえ、十分な
権限を持つ品質保証部門があったとしても、打つ手が分からないことには機能し
ません。現実の役割は実態に応じて変わりますが、いずれにしてもクレームに対
応する権限を持つ部署としくみが不可欠です
*用語「業際間課題」
業際間課題とは、複数部門が協同でおこなうべき課題であり、部門横断の最適解
が必要な事項を指しています。全社の収益改善に寄与する観点から判断が求めら
れることが多いのも特徴です。業際間課題の典型例として、アイテム増減、在庫
圧縮、納品リードタイム短縮があり、営業あるいは生産部門の利害が相反しやす
く、単独部門では判断しにくいのが特徴となっています
・基本業務の流れに沿った課題指摘
クレームあるいは顧客の愛のある要望にしたがい、基本業務の流れのどこに問題
点があるのか明確にすることが必須です。ここでいう基本業務とは、製品企画か
ら始まり、設計〜生産設計〜製造設計、生産〜販売物流〜販売に至るライン部門
の基本業務フローを指しています。したがって、複数部門の知恵を活用すること
が欠かせません。実際に調査すると、次のようにいろいろ出てきます
ゝ発生クレームの内容把握が不十分
ゝ現品確認すべき報告が電話連絡で起案しクレーム報告
ゝ取扱説明書をユーザーが理解困難
ゝユーザーの想定外の使われかた確認
ゝユーザーの使われかたに対する強度不足
ゝ加工・組み立てがしにくい設計のためミス発生しがち
(現場を知らない設計の存在)
一部の紹介ですが、多彩な問題点が浮かび上がることが多いものです。不思議な
もので、前項に述べた認識が変わらないと、同じ対象を見ていても問題とは認識
されません。ましてや、経営方針に反することや抵触する内容が表に出てくるこ
とは稀です。聖域があってはなりません (>_<)
今回触れていませんが、クレーム対象には、ここまで述べた以外に価格、量、使
い方を保証するカタログ、取扱説明書も入ることがあります
・モチベーション促す業績評価
長い目で見ると、人は評価される方向に行動します。かつ、人は評価されないこ
とをやりません。しかも、評価方法を変えても即行動が変わるかというと、必ず
しもそうではありません。逆に、また変わるのではないかと注視されています。
新しい評価による賞罰の実績が繰り返し示され、行動は徐々に変化を見せること
が大半です。
誰しも同じとはいいませんが、これまでの経験則では、お客さまの目線より、自
分の業績評価が人を動かしていることが多いものです。同様に、企業業績に貢献
することが分かっていても、第一義には自分の評価のゆくえを気にします。この
モチベーションのあり方は、企業の文化と言っても過言ではないでしょう。忍耐
と時間を要する課題です
*用語「業績評価」
業績評価とは、業績の達成要件を明確にし、達成度を測る判断基準設定により到
達度を明らかにすることです。業績とは、達成すべき対象の到達度のことで、売
上や利益を指す場合と、業務効率や自社の強み確立など、重点課題ではあっても
定量把握に向かないものがあります。したがって、目標とされた売上高・営業利
益・製造原価低減や達成すべき課題に対する満足度などが、業績の達成要件に相
当します (^0^)
ここまで見てきたように、リコール問題、その前段で発生するクレーム処理は、言
い方を変えるなら、さらに上を目指すための企業体質の強化策とイコールと考えら
れます。また、企業規模が大きくなるほど、私どもの主張する全体最適の視点が欠
かせないと思うこの頃です (∩_∩)
編集後記
今日、日曜日に清書していますが、朝から雨です (>_<)
このあと、泳ぎに行く予定ですが、そのあとのビールの旨さに影響するかもしれま
せん (^0^)
雨が降っていても、花粉は飛んでいます。昨日の土曜、3月6日に今期2回目の花粉症
の薬を処方していただくため、いつもの医院に出かけました。何と混んでいること
(苦笑)
皆さんは大丈夫ですか (?_?)
仲間入りの歓迎会を開く準備は整っています (=^^=)
予定より、だいぶ原稿が長くなってしまいました。最後までお読みいただきありが
とうございます m(_ _)m
それでは、次回またお会いしましょう (^.^/)))~~~bye!!