収益改善に役立つ統制指標の切り口

収益改善に役立つ統制指標の切り口
【現役 経営コンサルタントの裏情報! No.7】
発行 2009/04/13

【目次】

1.事業撤退とビジネスモデル
2.物流決定コスト追求の果て その4

1.事業撤退とビジネスモデル

こんにちは 前田です!

 

今朝、4月10日の日経新聞朝刊の一面を見て驚きました。大手化学メーカーが2つの
事業から撤退とのニュースです。読みながら、以前お手伝いしたことが走馬燈のよ

うによみがえってきたんです。事業撤退の決断は、苦渋に満ちたものに違いありま
せん

 

 

◆コスト低減等でお手伝いしたメーカー

 

小生は、2001年1月から約10カ月間、当の子会社にてお手伝いさせていただきました。
同業界では、これまでもお手伝いの機会を多くあります。当企業は、大手化学メー

カーが大半を出資、これに同業メーカーが参加した共同出資会社です。同業メーカー
もよく知る企業です。発足後、間もない時期でした。発足の狙いは、収益改善の見

極め一点に尽きます。要するに、採算改善の見込みがなければ撤退、あるいは解散
等の決断となります

 

 

◆コスト低減余地極小

 

お手伝いの概要は、コスト低減、キャッシュフロー改善、販売の採算改善です。コ
スト低減の改善余地は、極小でした。投入努力との見合いで、当初から取り組み中

止を提言しています

 

 

◆在庫圧縮の活動中止を提言

 

在庫減によるキャッシュフロー改善分野でも、見込める効果は極小でした。これま
でお手伝いの企業では、最小在庫であり、理論値に接近した水準です。実務担当者

のお話しからすると、経験則とのとのことでした(驚き)。しかし、優秀な方々と
の出会いは、小生も得るものが大きかったと思います。在庫の理論的な算出方法は、

彼らも初めて知ったとのことです。しかし、在庫圧縮の活動中止理由を報告書にま
とめたのも、当企業が初めての経験でした(苦笑い)

 

 

◆小ロット受注の採算は?

 

販売面の課題のうち一つ紹介しましょう。客先別・製品別に採算判断をおこなう物
差しが不足していたのです。たとえば、同一客先に対し、同製品の紙袋・ローリ車

納品の販売単価が同じでした。営業担当の言い分はこうです

 

・1袋からの紙袋受注にも応じているから、大口注文をいただいている
 (少量受注を断ると、注文が他社に流れる可能性ありと暗に示唆)

・客先全体で見ると黒字なんだから問題ない

 

出荷ロット別のコストは把握されていません。感覚的に、小ロット受注のコストが
高いのは容易に想像できます。しかし、これを定量的に算出する方策が不明でした。

担当役員は悩んでいたわけです

 

 

◆通計コストで算出

 

出荷ロット別の物流費は、通計コストによって算出可能です。今では、ABC(活
動基準原価計算)という手段があるのをご存じなかたも多いと思います。アメリカ

から入ってきた手法です。元々は、日本の学者が提唱されたもので、小生も15年以
上前からコンサルティングで実際に使っています。当時は、はっきりした呼び方が

なく、通計コストは小生の造語です

 

 

◆小ロット受注は40円/kg強コスト増

 

結論は、1kg当たり40円強もタンクローリ輸送に比べて割高のコストとなっていたの
が判明しました。この計算は、結果的に物流サービスをコストで評価することにな

ります。コスト算出の狙いは、物流サービス是正の定量的な物差しづくりにあった
わけです

 

 

◆あるプラントの一部はすでに廃止

 

今回のニュースによれば、事業から完全撤退とありますが、実は一部のプラントは
すでに廃止済みです。当時、あるプラントの採算改善余地はほとんど期待できない

ため、廃止が妥当と提言していました。数年後、スクラップアンドビルドの対象と
なったわけです

 

汎用樹脂は、化学メーカーにとって主力事業でした。それが、近年の国内需要の減
退、中国等での大型プラントの立ち上げ等により競争力を失った結果です。とくに、

この樹脂はプラントの大きさが原価を決めてしまいます。周辺に改善余地はほとん
どあり得ません。ビジネスモデルのあり方が競争力なのです

2.物流決定コスト追求の果て その4

物流コストについての続編です

 

前回「物流決定コストを知る」では、物流部門から見た輸送費、保管費、在庫の量
は、大半が管理不能費ということを順に紹介しました

 

今回採りあげた前項の「樹脂製造から撤退のニュース」は、決定コストの例でもあっ
たわけです。つまり、最小受注ロットの設定が物流費を押し上げる原因でした。こ

のルールがある限り、受注を断ることができません

 

最小受注ロットは、販売政策の一環として設定されることが一般的です。営業から
見ると、コストアップするなどという意識はみじんもなく(言い過ぎかもしれませ

ん)、顧客サービス、他社との差別化をとおして売上に貢献できる位にしか、通常
では考えていないでしょう

 

 

◆物流発生コストに至る流れを知る

 

前回メルマガでも、物流費は発生コストであり、物流費を決めるのは、納品リード
タイムを含む物流サービスである旨お話ししました。前回触れなかった部分も含め、

物流発生コストから逆算して流れを整理してみましょう

 

 

◆物流発生コストを上位にさかのぼる

 

物流発生コスト → 物流ネットワーク → 物流サービス → 販売政策 → 
経営戦略

 

これが、物流発生コストから上位に展開した物流決定コストの流れになります。意
識するしないにかかわらず、経営戦略が結果としての物流コストを決めているので

す。さらにさかのぼると、経営方針、経営目標、経営理念などとなってきます

 

 

◆物流ネットワークとは

 

製品などの物が一時滞留する場所を結節点(node)、結節点間の物の流れを輸送経
路(link)と呼びます。物流を結節点、輸送経路、情報の流れに区分して捉える概念

を物流ネットワークと呼んでいます。物流ネットワークが物流サービスによって決
まると、結果的に物流発生コストの90%以上は決まると言われます

 

 

◆物流サービスとは

 

これまでも物流サービスと使ってきましたが、定義を申し上げておりませんでした。
物流サービスとは、物品受け渡しに付随するCS(顧客満足)の観点から調整され

た取り組みをいいます。小生が10年ほど前に定義しました。物流サービスには、在
庫サービス(品揃え、品切れ率)、納入条件(納品リードタイム、時間指定、納品

場所、検品の有無・内容、容器回収など)があります。いずれも、販売上の条件と
して決定されるものがほとんどです。したがって、物流サービスが設定されること

によって増加するコストは、物流部門から見れば管理不能費となってしまいます

 

 

◆物流は他律的

 

物流部門からすれば、自らの意志でコストが発生するのではありません。販売と生
産の物の流れの両端が決まり、初めて物流量、物流のあり方もコストもはっきりし

ます。このことを、一般に物流は他律的と呼んでいるわけです

 

 

◆決定コスト解明が次の展開ポイント

 

物流コストが下がらない場合はどうするのか…の問に「結論は業際間業務改革の方
向」とメルマガNo.5で申し上げました。物流部門だけではいじりようがないとして

も、一つ上の立場から変更を加えることは可能な場合も多いのです

 

たとえば、物流センター内の残業を減らすための方策を考えましょう。あなたなら、
どうしますか。作業改善によることも可能でしょう。実際にお手伝いした例ですが、

受注締切時刻を変更したことがあります。従来の15時から13時に早めたわけです。
このケースでは、予想した各方面からの反発もなく、受注が減少することもありま

せんでした。わがままな客は、どこからも煙たがられていたみたいです(笑)

 

 

◆現状の部門権限にこだわらない

 

実際には、難しい問題となることも多いですね。物流決定コストにさかのぼったら、
生産計画業務や営業企画の実務と権限がないとできないことも起こってきます。部

門の権限を超えてしまうわけです。これが、結果的に物流部門廃止の流れになって
いる背景なのです

 

 

◆決定コストは統制指標の背景の一つ

 

物流あるいはロジスティクスの分野では、大手企業をいくつもお手伝いする機会に
恵まれてきました。しかし、何度も言うように2004年辺りから、物流コストに下げ

止まりが見え始めたのです。小生も悩みました。決定コストの存在が、本当に企業
収益に貢献しているのか、そもそも貢献を判断する基準は何か、現経営資源を最大

活用の視点から決定コストを判断すべきではないだろうか、決定コストが収益に悪
影響をおよぼすことはないのか、コストが下がらない場合の経営効率改善の視点は

何か……と

 

 

少々、長くなりました。最後まで、お読みいただきありがとうございます。
また、次回お目にかかりましょう