収益改善に役立つ統制指標の切り口

収益改善に役立つ統制指標の切り口
【現役 経営コンサルタントの裏情報! No.10】
発行 2009/05/04

【目次】

1.爆薬工場 見学トピック
2.部門最適にこだわったロジ部長

3.技術部門の垣根を越える方策

まえがき

こんにちは 前田です!

 

世の中、お休みモードですね(^-^)
休みが多いのも、一概にいいと言い切れないかたもいらっしゃるようです。

ゴールディンウィークは、全般的にお天気に恵まれています(^-^)

 

高速道の「休日は千円乗り放題」が実施され、行楽地への人出も多いですね。お天
気だけでなく、景気の晴れ間も早く見えることを期待しています…

 

 

◆新型インフルエンザの報道推移

 

新型インフルエンザ(Influenza A(H1N1))も気になります。5月3日 14時現在、
スイスのジュネーブに本部があるWHO(世界保健機関)発表によると確定例786、

死亡19です。情報が日々更新されています。この原稿が配信される頃にはさらに
情報が更新されていることでしょう

 

WHOのサイトを見ながら日本時間に換算するのに、悩んでしまいました。4月29日
から欧州は夏時間になったんですね(汗)

 

こんなことも出来るんですね。グーグル(Google)の地図上に発生箇所等がマッピ
ングされた「2009 H1N1 Flu Outbreak Map」がインターネットで見られます。まる

で、映画を見ているように迫力あります。ワクチンもない状況ですが、早く収束宣
言が出されることを祈っています

 

 

◆最上の情報源はどこか

 

新型インフルエンザの一連の報道を見て感じるところがあります。どこが情報源と
なっているか…という点です。日本の公的機関では次のところから発表されていま

 

1.厚生労働省

 

基本的にWHOの発表に基づいています。ということは、WHOの発表を直接検
索したほうが早いということです。厚生労働省は5月2日の土曜日はWebサイトを

更新していますが、3日の日曜日はそのままの状態です

 

2.国立感染症研究所(IDSC、東京都新宿区)

 

ここの発表は国内公的機関では一番早いようです。しかし、情報源はWHOです。
この原稿を書いている最中にも、WHOのサイトと1バージョン(update 10)前の

データの状態です(2009年5月3日20:00現在)。IDSC発表では確定例658となっ
ていますが、前述のようにWHOサイトではバージョン11(update 11)により症例

786と報告されています

 

やはり、最上の情報源を見つけることが得策です。VEの創始者ローレンス・D・
マイルズ氏の言葉です

 

 

さて今回は、部門最適では成果が得られにくい事例への取り組みかたについてご紹
介します。

2の例では、部門横断の取り組みとすべきところを、部門内方策にこだわったもの
です。

3の例は、うまく立ち回った部門の垣根を越える内容を紹介します

1.爆薬工場 見学トピック

次項ご紹介の企業で、以前お手伝いしていました。改善対象とした工場ではありま
せんが、そのとき見学した工場の一つが爆薬工場です。季節がちょうど今頃でした

ので、遠出できなかったかた向けに風景をご紹介したいと思います

 

 

◆音が出ない爆薬

 

爆薬工場は、周囲に民家のない低い山の中にあります。戦時中は軍需工場で、軍が
工場を守っていたそうです。この訪問で、小生も初めて爆薬に触らせていただきま

した。信管がないと爆発しないから大丈夫と言われたのですが、内心冷や冷やもの
でした。爆薬は、ジュラルミン製のアイスボックスのような容器に入って実際に冷

やされており、柔らかめで芯のない太いローソクに似ています。爆発させたとき、
振動は発生するものの爆発音が出ない?もので、ダム工事などでよく使われるそう

です。音が出ないということの不思議さが、今でも印象に残っています

 

 

◆工場棟が見当たらない工場

 

爆薬工場の入り口はものものしいのですが、中に工場建屋は見当たりません。一見、
手入れのいい広い雑木林の中に道路が延びている風景なんです。所々に見られる土

盛りに違和感は感じましたが…。それもそのはず、工場は地面を掘り下げ、周囲を
土手で囲んだ半地下式の構造で作られているからです。爆発したときの被害を最小

限に食い止めるためのようです

 

 

◆土手を掘る猪

 

春から夏にかけての季節には、土手のモグラを大好物とする猪が出没します。猪が
壊した土手の補修に追われ、毎年のことながら困るとお聞きしました。最近、全国

各地で猪が増えているそうですが、若いのが美味しいですね(^o^)
(本当です!)。一度、試してください

2.部門最適にこだわったロジ部長

◆化学メーカーの新任ロジ部長

 

知り合いの物流事象者のかた経由で、以前お手伝いした化学メーカーの新任ロジス
ティクス部長が会いたいとの申し入れを受けました。新任部長とは今回初めてお会

いします。物流事業者は、当該化学メーカーの元請も長年しており、売上高も一千
億円に迫る大手の一角にランクされます

 

化学メーカーの連結売上高は、千数百億円。以前、構内物流改善でお手伝いしまし
た。前項の爆薬工場は、そのときに見学させていただいたところです。メーカーの

業種は化学ですが、化学品事業の売上は全体の半分程度です

 

2003年に遡りますが、従来の企業形態から分社・持株会社制に変更しています。当
時発表された目的の一つとして、各事業単位が環境変化に迅速に対応できる体制の

徹底、および責任と権限の明確化を図るためとしています

 

お会いしたロジスティクス部長は、日用品を扱う事業会社に所属しています。当日
は、ご紹介していただいた物流事業者の部長も同席されました

 

 

◆在庫圧縮が用件

 

用件は「在庫圧縮」でした。ロジ部長いわく「着任してようやく半年位になるが、
中身がよく分かっていないところもある。上司の役員からは、在庫圧縮の指示が出

ている。以前も取り組んだが、うまくいかなかったと聞いている。今回取り組みで
は、何としてでも成果を上げろと強い意向が示された」

 

同行した物流事業者にも相談したが、ロジ部長の考えかたと合わず、当方と意見を
同一にする事業者部長が紹介の労を執ったと後で知りました

 

 

◆ロジ部長との質疑

 

以下、小生からの質問とロジスティクス部長の答えを要約しました

 

1.在庫とは何を指すのですか?
 (答え)製品在庫だけです。原材料、仕掛品、半製品は対象外です

 

2.生産終了後の製品在庫は、どの部門が保有することになっているのですか?
 (答え)営業部です

 

3.製品在庫の現品管理はどの部門でおこなっていますか?
 (答え)ロジスティクス部が現品を入出庫、保管、輸配送しています

 

4.在庫を持つことによって発生する費用は、どの部門で計上するのですか?
 (答え)保管費、入出庫料、工場と営業倉庫の横持ち費用等、すべて

     ロジスティクス部で計上します

 

5.受注部門はどこに所属していますか?
 (答え)ロジスティクス部です

 

6.生産計画、生産日程計画はどの部門で担当していますか?
 (答え)製造部です

 

7.特注や緊急受注が入り、在庫がない場合の指示はどうなっていますか?
 (答え)ロジスティクス部が客先から一旦受注し製造部に依頼します。

     次に、対応可能な返事が製造部からありしだい客先にOKをだします

 

8.ロジスティクス部が生産日程計画を変更することは可能ですか?
 (答え)計画変更の権限もありませんし、できる人もいません

 

9.製品在庫圧縮の目標はあるのですか?
 (答え)現時点ではありませんが、どの位できるのかはっきりしてから

     目標設定するつもりです

 

10.在庫圧縮に実質的に関わる部門でチーム編成し取り組む必要があります。
 対象部門は、営業部、ロジスティクス部、製造部です。リーダーは製造部門、

 事務局はロジスティクス部門でいいと思います。チーム編成は可能でしょうか?
 (答え)ほかの部門とのチーム編成は無理です。役員の指示は、ロジスティク

     ス部が受けたもので、自部門の課題をほかの部門に手伝ってもらう
     ことはやりたくありません

 

11.在庫を圧縮しようとするなら、在庫を実質的に決める権限と業務をおこなって
 いるかたがいないと困難です。このことを分かっていただくよう、役員を説得

 していただくのが得策です
 (答え)現状のロジスティクス部門の権限でできることで、在庫を圧縮したい

     と思っています

 

12.販売のために必要な在庫を算出することは可能です。しかし、適正在庫を超
 える在庫の抑制策を講じない限り、在庫量そのものは少なくなりません。

 つまり、生産日程計画を変更しない限り抑制策とはなりませんよ
 (答え)それでもできる方策を示すのがコンサルタントではありませんか

 

13.販売のために必要な販売用適正在庫を算出し、不要不急な在庫を顕在化させる
 だけでは、ロジ部長の立場が問われることになるのは目に見えています。

 今後、状況が変化し、在庫を実質的に扱える部門の参画があるまで待つことに
 しましょう

 (答え)ロジスティクス部門内でできることをお手伝いしていただけると
     思っていましたが、商売っ気がないんですね

 

14.私どもは、社内で起こりうるであろう場面が想定できるのに、有効な方策を
 持たず望むことは避けたいのです。それが、ロジ部長の立場強化に役立つと

 思いますし、今後のロジスティクス部門の歩むべき方向性と捉えています

 

 

◆結末

 

このやりとりは、わずか30分程度と記憶しています。皆さんは、どう感じられたで
しょうか。この企業からは、その後も打診があるものの進展は見られません。

また、事業会社そのものも、分社事業の再編成から、現在ほかの分社と統合されて
います

 

この件がきっかけで、当の化学メーカーではなく、紹介物流事業者の内部の課題
で、私どもはお手伝いさせていただくことになりました。詳細を申し上げることは

困難ですが、テーマは3PL推進のプログラム作りです

3.技術部門の垣根を越える方策

◆日用品事業の同様事例

 

前項とは逆に、うまくいった事例もあります。皮肉なことに、同様事業でのできご
とです。実際のお手伝いは、こちらのほうが古い話になりますが…(^-^)

 

 

◆M&Aで名前残らず

 

同様に、同社も大手化学メーカーです。M&Aの結果、お手伝いしたメーカーの事
業はそのまま継承されていますが、現時点で社名は残っていません。化学業界だけ

ではありませんが、M&Aのため元々の企業がどこにいったのか非常に分かりにく
くなりましたね。代表格は銀行かもしれませんが…(^v^)

 

 

◆テーマは販売物流改善

 

さて、同化学メーカーにおけるテーマは、販売物流領域のコスト低減でした。誠に
優秀なプロジェクトメンバーが揃っていたのを思い出します。お手伝い後、グルー

プ企業へのコンサルティングを自ら実践したことでも知られています

 

 

◆技術が強い企業

 

抽出された物流課題の一つに在庫圧縮がありました。生産終了後の在庫は営業部門
に帰属し、物流部門には生産日程計画に関与できる権限がありません。昔から、当

社は技術で生きていると言われ、他の部門が生産に口だしできないとのことです

 

 

◆技術部門のプライドに訴える

 

キーは、これを逆手に利用したことでした。同社の工場内に製品在庫を置くスペー
スはなく、工場外に全量保管するしかありません。そのため、同工場の周辺に営業

倉庫をかなりの面積を確保しています。当然ながら、保管費は物流部門の費用です

 

 

◆余分在庫の見える化

 

まず、販売用の適正在庫を算出しました。工場周辺以外の各地にある倉庫は、必要
最小限の在庫に抑えること。次に、余分となった在庫は、工場にもっとも近い倉庫

に集約させたことです。しかも、荷動きのある在庫と、余分と算出された分が置場
で明確に分かるようにしたのです

 

 

◆余分がなくなった

 

効果てきめんでした。工場の生産管理のかたは、こんなに余分な在庫を造っていた
のかと現物の山を見て気付かされたのです。さすがに、対応が早かったですね

(^0^)。数カ月もしないうちに、見事に適正在庫の水準になりました。まさに、
プロジェクトチームの作戦勝ちです

 

 

◆配合変更の影響

 

部門間に渡る課題(業際間の課題)では、もう一つ問題がありました。製品重量の
変更が課題です。製品荷姿の状態、たとえば段ボールケース入りだと出荷時荷姿で

台秤で計量します。従来の荷姿重量より、随分軽くなっていました。腑に落ちない
ため、工場技術部門から製品重量を取り寄せて比較。計量したのと一致しています。

これで、運賃が下がりました。運賃は、基本的に(貨物の重量×距離)で決まりま
す。つまり、貨物が重量品である限り、重量に比例して運賃が変わることを意味し

ます

 

なぜ、こんなことが生じたのでしょうか。製品は、樹脂のシートです。物性改良の
ため、配合変更をおこなった結果を技術部門から物流部門に連絡していなかったと

分かったのです。技術部門いわく、物性が良くなる方向に変えたので顧客満足度も
上がり、とくに外部に連絡する必要性を感じなかったとのことでした

 

 

◆大きかった個人の持ち味

 

本項の技術部門のプライドに訴える方策は、プロジェクトメンバーのリーダーの持
ち味が大きかったと思います。実に優秀な人で、物腰柔らかく顔の広いかたでした。

今どうされているでしょうか(^-^)

 

 

◆統制指標が必要な背景

 

ここでの事例は、個人の能力によって得られた成果が大きかったことは確かです。
しかし、全社的な観点からは、少し冷たいように聞こえるかもしれませんが、やる

べき方策を当然におこなわれた判断とも言えなくありません。ここが見逃してはな
らない部分です

 

つまり、個人の能力をしくみに変えることが重要なのです。そうしない限り、長続
きしません。マーケット環境の変化に即応することにも、自ずと限界がでてきます。

このもの差しの役割を果たそうとしているのが統制指標です

 

 

最後まで、お読みいただきありがとうございます。
連休も残りわずかとなりました。休みの疲れを残さず現場復帰しましょう。

それでは、次回またお会いしましょう