収益改善に役立つ統制指標の切り口

収益改善に役立つ統制指標の切り口
【現役 経営コンサルタントの裏情報!】
発行 2011/01/24 No.88

【目次】

1.予実績管理への活用

まえがき

こんにちは 前田です!

 

東京は雨がもう1カ月も降らない日が続いています。連日、乾燥注意報が出ているようです。どういうわけか、小生は静電気に好かれています。今朝もしびれました。体にはいいと聞いたことがありますが、あまり気持ちのいいものではありません。この時期は静電気が溜まったと感じたとき、事前に恐る恐る金属に触って逃がすようにしています (>_<)
                         金波楼 2010.12.15

金波楼今回の写真は金波楼(きんぱろう)です。日奈久温泉でも古い建物と聞いています。1909年(明治42年)に建てられた木造3階建ての老舗旅館です。100周年記念のパーティに呼んでもらえなかったと、コンサルティング先のお客さまは嘆いていました。もっとも、昔はよく使ったものの、最近はご無沙汰とのこと。建物は、国登録の有形文化財です

 

案内板

 金波楼の案内板

 

前回宿泊した柳屋旅館のすぐ隣、日奈久温泉の中心地にあります。この写真は12月15日の朝、散歩がてらに撮影したものです。日奈久温泉でもっとも高級な旅館の一つに入ります。仕事で泊まるには、もったいないところかもしれません。どうせ泊まるなら、ゆっくりしたいですからね (∩_∩)
                            金波楼

金波楼写真ではよく分かりませんが、中庭も広いと聞いています。立ち寄り湯も入れるようで、500円とのことでした。昨年12月、東京のテレビで紹介されたようです。ぜひ一度宿泊したらいかがですか…と、推奨されています (●^o^●)

 

                            金波楼
金波楼機会があれば、小生も泊まってみたいと思っているのですが…。日奈久温泉には、湯の里めぐり入湯手形(1,200円)があり、3軒の温泉めぐりができます。まだ、宿泊した旅館以外の温泉には入っていません。ぜひ入ってみたい温泉の一つに、1958年(昭和33)開業の幸ヶ丘があります。旅館だったのですが、現在は立ち寄り湯のみの営業です。歴史を感じさせる純和風作りの建物で、風情が気に入っています (^-^)

1.予実績管理への活用

管理会計の最大のメリットは、経営管理への測定手段提供でしょう。測定できない
ものは、管理しようがありません。強調したい管理会計導入の要点は、次のとおり

です (∩_∩)

 

◆管理会計導入の要点

 

・収益予実績管理への活用(今回のテーマ)
・マーケット用途別の収益管理に適用(次回以降のテーマ)

 

要点のうち、収益予実績管理への活用を今回採りあげることにします (^^)

 

収益管理の狙いは、個別部門の部分最適ではありません。販売・生産・物流・開発
のライン部門が経営資源を生かし切り、収益能力の最大化追求をすることです。No.

87では、企業における管理会計採用の実態を採りあげました。仕事柄、管理会計の
活用度引き上げを狙う企業からの依頼が多いので、紹介している実態は平均像とは

言えません。しかし実際は、管理会計の活用を図る企業自体がまだ少数派ではない
でしょうか

 

*用語「管理会計」
 企業内部の経営管理者に、経営に役立つ各種の会計情報を必要に応じて作成し報

 告する会計です。管理会計には、設備投資の計画など意思決定に役立つものと、
 期間利益計画・予算統制・標準原価計算など業績の評価に役立つものがあります。

 次に、一見紛らわしい管理会計の区分のしかた紹介です

 

 会計制度の種類:財務会計、管理会計
 原価計算方式 :全部原価計算(財務会計)、直接原価計算等(管理会計)

 原価計算の形態:財務・管理会計とも共通であり、生産形態で決定
         単純総合原価計算、等級別総合原価計算、個別原価計算

 原価計算制度 :財務・管理会計とも共通であり、条件に応じて採用
         標準原価計算制度、実際原価計算制度

 

最初、No.87の管理会計採用の実態を概略紹介します。内容は二つ、適用範囲が一部
製品なのか(=管理会計の適用範囲)、原価算出だけでなく事業損益の領域までな

のか(=管理会計の適用領域)です。管理会計の導入は、この二つの組み合わせで
基本的な内容が決定されます (^v^)

 

 

◆管理会計の適用範囲

 

No.87では、管理会計の導入形態を紹介しました。次の中点後段になるほど、管理会
計の適用範囲が広がります

 

・特定製品だけに適用
・事業部門内の全製品を対象

・複数事業部門の製品が対象
・連結企業まで含む範囲に適用

 

 

◆管理会計の適用領域

 

No.87では、管理会計の実適用形態として紹介しました。適用領域とは、言い換える
と管理会計の活用度です。財務会計以外の方法を、すべて管理会計の範ちゅうに入

れましたので、若干疑義が生じるのを覚悟で区分しています。どうぞ、ご容赦を
 m(_ _)m

 

No.87の要約は次のとおりです。前項と同じく、中点後段ほど管理会計の適用領域が
広がります

 

・製造経費を変動費と固定費に区分
・製造原価に直接原価計算を適用

・変動損益計算書を作成
・部門振替時の連結製造原価算出と採算分析

・連結子会社との連結製造原価算出と採算分析
・持分法会社との連結製造原価算出と採算分析

 

それぞれの内容を概略紹介します

 

・製造経費を変動費と固定費に区分
 通常、管理会計導入の水準とは言えません (∩_∩)

 

・製造原価に直接原価計算を適用
 直接原価計算は原価計算方式の一つです。ほかに、スループット計算、ABCな

 どもあります。財務会計(制度会計)では全部原価計算のみです。ちなみに、全
 部原価計算の反対を部分原価計算と呼びます。製品全部の原価を計算するから全

 部原価です

 

 これに対し、部分原価計算は文字通り、部分の原価算出をします。代表格が直接
 原価計算です。算出した変動費のみを原価と呼びます。管理会計を導入していな

 い企業で、最初このことを話すと違和感を持たれることが大半です。反面、経営
 判断に有効な多くの情報提供ができます

 

・変動損益計算書を作成
 販管費を、変動費と固定費に区分することにより作成可能です。事業(セグメン

 ト)別、製品群別、さらに顧客別に区分しているかにより幾つかのパターンがあ
 ります。採算分析は、このまとまり単位に実施可能です。当然のことですが、原

 価算出のまとまりより細かい変動損益計算書の作成はできません。管理上必要と
 なるまとまりに、最初の段階で区分することです。把握単位を細かくすればする

 ほど、算出の労力も増えます。活用方法の見極めがポイントです

 

・部門振替時の連結製造原価算出と採算分析
 メーカーでよく見られますが、部門振替がある製品の原価算出が対象です。連結

 製造原価は、製造工程が企業内部門を超えて製造される製品を、連続工程で製造
 したように算出する原価を指しています。部門振替が一方通行ではなく往復もあ

 るケースでは、往々にして変動費と固定費の区分が困難です。とくに、部門振替
 時に標準原価の固変割合に応じて変動費と固定費を割り振る方法では問題があり

 ます。問題は、損益分岐点分析が実態と合わなくなるからです

 

 この問題は、連結製造原価算出により解決します。連結製造原価の算出は、部門
 の内部取引を含んで合算し、次に内部取引のみ集計・消去し合算する方法の単純

 合算消去法を推奨しています。個別部門の変動PLをそのまま利用でき、分かり
 やすいのが特徴です。しかも、アイテム別に集計可能なことから採算分析もでき

 ます

 

・連結子会社との連結製造原価算出と採算分析
 前項の部門振替時の連結製造原価と同じく、連結企業間に同一の方法を適用する

 ことになります。連結製造原価は、連結企業間で製造工程が分担された製品を、
 一工場で製造したように算出する原価です。算出方法は、前項の単純合算消去法

 以外に積み上げ式があります。積み上げ式は、関係会社のデータに内部取引を含
 めず、積み上げ計算する方法です

 

 単純合算消去法は、個別企業の変動PLをそのまま利用でき、分かりやすいので
 小生も推奨しています。しかも、アイテム別に集計可能なことから採算分析もで

 きます。算出目的は、採算分析等の情報提供とグループ全体の最適追求です

 

・持分法会社との連結製造原価算出と採算分析
 もう一歩駒を進め、連結による持分法会社まで対象に算出します。しかし、現実

 的には困難なことが多いでしょう。必要時に算出できる環境づくりが、当面の対
 応策かもしれません (^v^)

 

予実績管理の強化が必要とされる、典型的な例を紹介します。ここからが、今回の
テーマ、管理会計の「収益予実績管理への活用」です (^0^)

 

 

◆日常業務例

 

事例企業は、自動車・家電・電子機器向け部品を供給する受注生産型企業です。お
客さまから製品の引き合いがありました。早速、技術、製造担当者と打ち合わせの

うえ見積書を作成します。その後の試作、値引要請にも応え、ようやく成約にこぎ
着けました。受注品は、自社エ場、製造委託メーカーで製造後、継続的に納品して

います

 

当月の製造原価は、翌月営業3日に通常算出されます。ただし、製造原価は全部原価
計算による製造部門別・製品群別の算出です。当然、アイテム別には把握できませ

ん。いわゆる財務会計下での製品群別・総合原価計算というわけです

 

 

◆問題の概要

 

製造部門別・製品群別に儲かっている場合は、問題ないかもしれません。前項の事
例企業も、3〜4年前まではまさにそうでした。しかし、価格競争が厳しく忙しいわ

りには営業利益率の低下が目立っています。幸いな点は、2008年9月のリーマンショ
ック後の売上数量を超えていることかもしれません。製品は、顧客企業から支持さ

れているようです

 

数量増に比例する形で、売上高も伸びています。自社工場の稼働率も、上限に張り
付いたままです。自社工場の製造不足分は、製造委託先からの調達数量増でまかな

うのが常態化しています

 

経営トップから、営業利益率低下の要因と、今後の対策を報告するよう指示があり
ました

 

収益管理上も、受注生産では個別原価計算が必要なわけです。しかし、長年その必
要性は認知されて来ませんでした。現状の製品群別・総合原価計算では、個別アイ

テムの損益は把握できません。関係者による、利益率低下の想定要因は次のとおり
です

 

 

◆利益率低下の想定要因

 

・増産対応の自社工場・設備増による償却費負担
・製造委託先からの調達量増加

・増産対応のため、製造委託先への部分的な発注単価引き上げ
・原料費の値上げ要請一部受け入れ

・新規受注分の一部見積単価の妥当性に疑問
・継続受注品の値引要請受け入れ

 

関係者の議論では、利益率低下の要因を特定することはできませんでした。分析困
難な原因の一つに、製造委託品が自社工場の製品に組み込まれるものが多いことが

あります。損益の推移から考えると、外部調達量の増加が営業利益率低下の主因の
一つかもしれません

 

当然のことながら、今後の具体的な対策提言は不可能です。唯一、当面着手すべき
ことは、管理会計による個別原価計算の実施ということになりました

 

 

◆収益の予実績管理強化が当面の急務

 

収益の予実績管理は、容認できない予算と実績の差異ありと判断される場合、要因
解析ののち差異解消策立案、実施、差異解消に至るマネジメントサイクルの実践を

指しています。当管理の目的は、予算達成を確実にすることです

 

収益予実績管理に、不可欠な要件は次のとおりです

 

・受注生産品への管理会計による個別原価計算の実施
 製造経費、販管費とも変動費・固定費に区分します(=固変区分)。次が、従来

 実施の製品群別・総合原価計算からアイテム別の個別原価計算への移行です

 

・見積基準の再構築
 アイテム別の個別原価計算をもとに、見積基準の再設定が必要です。概略は、営

 業が使いやすい見積もり方法設定、見積書レイアウト作成等あります。分かりや
 すい見積もりとは、製造経費の費目別算出をチャージにまるめ、計算簡略化を図

 ることです。ただし、毎期改訂(=洗い替え)が欠かせません

 

・顧客別・製品別・変動損益計算書の作成
 顧客別・製品別の損益と損益分岐点が分かります

 

・顧客別・製品別・採算分析資料作成
 差異分析の基資料となる採算分析帳表を作成します。同時に、成約した製品との

 原価・損益の差異分析可能なしくみを整えることも欠かせません

 

*用語「チャージ」
 正確にはチャージレートといいます。単位製品製造に必要な時間当たり加工費単

 価のことです
 ex.単位製品当たり加工費 = 加工費単価/時間 × 単位製品の加工時間

 

 

◆予実績管理強化の効果

 

前段で事例紹介した「日常業務例」の問題は、ほとんど対応可能となるでしょう。
差異要因を特定できることが、最大のメリットです。つまり、PDCAのマネジメ

ントサイクルを従来に比べ、効率的に回すことが可能となります。もちろん、差異
要因特定だけでなく、有効な改善策の立案と実施が重要なことはいうまでもありま

せん

 

いいことずくめのように聞こえるかもしれませんが、次の点に留意して下さい

 

 

◆予実績管理実施の留意事項

 

・統制部門の設置
 単なる個別原価算出、変動PL作成、採算分析の資料提供だけでは問題解決とな

 りません。権限を持って管理する統制部門の設置、あるいは役割分担を明確にす
 ることが不可欠です。さらに当該部門には、製造現場、営業現場を知っているか

 たの配置が欠かせません。統制部門への権限付与だけでは、業務が機能しないこ
 とを、これまでも嫌というほど見てきたからです (=^^=)

 

・業務量が増加
 メンテナンス、日常的な採算分析サービス、改善策立案補助などの業務量が増え

 ます。兼務でおこなうと、従来の日常業務が優先となりがちです。予実績管理が
 習慣化するまでは、経営トップに近い位置にある管理部門長が責任者となること

 を推奨します。予算達成を確実にすることが、予実績管理の目的です。収益向上
 に資する、重要度の高い業務としての位置づけを忘れてはなりません。任せただ

 けでは、新しい哲学は根付かないことを肝に銘じるべきでしょう (^∧^)

 

今回のテーマは、意外に多くの企業で必要とされていると思います。次回以降に予
定しているテーマは、マーケット用途別の収益管理に管理会計活用の立場から紹介

するつもりです

編集後記

管理会計による原価の活用方法をテーマに書きました。現実には、管理会計と無
縁な企業も少なくありません。というより、導入していない企業のほうが多いので

はないでしょうか。測定できないものは管理できません

 

管理会計の採用は、経営の意志決定に有効な測定手段の提供となります。現状の企
業実態を直視し、少しでも活用度を引き上げて欲しいものです。個別部門の部分最

適にとどまらず、全ライン部門が経営資源を生かし切り、収益能力の最大化追求に
まい進して欲しいと念願してやみません

 

 今回頁数は次のとおりです
  317行/校了時点の合計÷53行/頁≒5.9頁

 

最後までお読みいただきありがとうございます m(_ _)m
それでは、次回またお会いしましょう (^.^/)))~~~bye!!