収益改善に役立つ統制指標の切り口

★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 収益改善に役立つ統制指標の切り口
  【現役 経営コンサルタントの裏情報! No.11】

                                         発行 2009/05/11
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★

【目次】

1.ビジネスモデルによる物流費 その6
2.メーカーはビジネスモデルから物流を捉える

まえがき

こんにちは 前田です!

 

長い長い連休も終わったかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
休み疲れなく、今日の月曜日は張り切っていますか(^-^)

 

ライフワークとは、朝起きたとき「よし、今日も張り切っていこうか」と思えるこ
とです。反対に、朝目覚めて、何となく今日は行きたくないなあ、できれば休みた

いなあと感じるようだと、要注意です。気が乗らない仕事ほど、希望してやったほ
うが自分のためにもなるものですよ(^^)

 

それにもかかわらず、お読みいただきありがとうございます。相変わらず、新型イ
ンフルエンザのニュースでにぎわっていますね

 

 

◆最上の情報源はどこか

 

新型インフルエンザの一連の報道は、まだつづいています。それどころか、とうと
う日本でも症例がでてきました。5月10日13時現在、カナダから帰国した大阪府立高

校の生徒3人と教諭1人の合計4人です

 

情報源としての、日本の公的機関を先週から観測してきました。厚生労働省と国立
感染症研究所(IDSC、東京都新宿区)ですが、やはり発表が遅れますね。この2

つの発表を待つよりも、メディアの速報性に耳を傾けることと、世界的な症例発表
の信頼性からはWHO(世界保健機関)といったところでしょうか

 

症例数をマッピングした世界地図がメディアに登場していますが、あれはWHOの
発表のしかたと同じですね(転載?)。WHOでは状況をまとめた記事と世界地図

を公表しています

 

前回原稿から1週間経過のWHOサイトを比較します

 

 update 11(2009年05月03日14:00)感染 17カ国、症例 787、死亡20
 update 24(2009年05月10日15:30)感染 29カ国、症例 4379、死亡49

 

 update 24には、日本の症例4も含んでいます。時間は日本時間です
 状況報告と地図のURL(地図は1〜2時間後に発表)

 http://www.who.int/csr/don/2009_05_10/en/index.html
 http://www.who.int/csr/don/GlobalSubnationalMaster_20090510_0800.jpg

 

国内でも、これ以上広まらなければいいのですが…

1.ビジネスモデルによる物流費 その6

◆物流費とは

 

これまで、物流コストが下がりにくくなってきた要因を5回に分けて見てきました。
それでは、そもそも物流費とは一体何なのでしょうか。例をもう少し、身近なもの

で考えてみましょう

 

 

◆ラーメン屋の物流費とは

 

ラーメン屋開業を想定します。店内は20席程度、住宅地に立地希望です。さて、未
来店主は考えました。店内営業のみにするか、出前もおこなうかです。実際に出前

をおこなう場合は、平均注文食数と単価、出前距離、容器回収含む出前要員数と工
数想定、つづいて採算試算が必要となります

 

ここでは、物流だけを採りあげ、単純化して捉えることにします。意志決定は2つに
一つ、出前をおこなうか、出前しないかです。仮に、出前はしないとすると物流費

は発生しません。逆に、出前実施となれば、多かれ少なかれ物流費が発生します

 

 

◆輸配送費低減の限界点

 

出前をするという意志決定が決定コストであり、出前実施のコストが発生コストで
す。出前をおこなう場合、出前担当者の物流コスト低減が、メーカーにおける物流

費の低減活動に相当します。しかし、出前実施を前提とした物流費低減では、物流
費ゼロはあり得ません。これが、物流部門における輸配送費低減の限界点なのです

 

 

◆出前の物流費は意外に高い

 

実際に、出前の物流費を算出すれば分かるのですが、出前に要する人件費、バイク
などの固定費が意外に高くつきます。器の回収を前提とすれば、出前注文のお客さ

まに2回行くことになります。一定量以上の注文がないと出前による売上の採算が取
りづらいものです。条件によりますが、以前計算した例では、出前物流単価

100円/回で損益トントンでした

 

 

◆ラーメン屋の流動倍率

 

2009年4月20日、No.9で、物流流動倍率についてご紹介しました。流動倍率は、出前
に関わる区間ごとの総物量を、売りの立つ出前物流量で割ったものです。器回収を

前提とし、出前1軒2食、器込み1食1kg、器を0.5kgと仮に置きます

 

【器を回収するケース】

 

 出前(貨物純流動):100軒/2食 計200食×1kg/食=200kg
 扱い全物量(貨物総流動):出前 100軒で200kg

        器の回収 100軒×2食×0.5kg=100kg、合計 300kg
 流動倍率=貨物総流動300kg÷貨物純流動200kg=1.5

 

【器を回収しないケース】

 

 出前     200kg(計200食×1kg)
 扱い全物量 200kg(出前200kg、器回収 0kg)

 流動倍率  1.0

 

器を回収するとすれば、流動倍率1.5以下にはなりません。当然、物流費低減にはあ
る限界が見えてきます

 

 

◆ラーメン屋のビジネスモデル

 

流動倍率の是正は、ラーメン屋の経営のしかたによります。店主の意向しだいなの
です。言い替えると、ラーメン屋のビジネスモデルによって決まります。ラーメン

屋のビジネスモデルとは、次の要素を組み合わせた概念を指しています

 

 ・ラーメンを調理する(製造)
 ・スープ・チャーシューなどの開発、品質向上、新メニューの開発(技術開発)

 ・お客さまに提供する方法、広告・宣伝、店内ご提供と出前併用など(販売)
 ・営業時間帯、チェーン店化など対象顧客の選択(マーケット開発)

 

*ビジネスモデル
 マーケットへの働きかけによって得られる事業収益が、どのような

 事業遂行の基本業務と流れから実現するのか表す事業構想

 

ラーメン屋を取り巻く環境が変わることにより、ビジネスモデルの要素(基本業務
あるいは収益構造と呼ぶ)にも変化が出てきます。たとえば、出前をするしないが

その一つです。調査主体によって変わるのですが、日本のラーメンの市場規模は、
7,000億円/年と見積もられています

 

 

◆一番儲かるビジネスモデルとは

 

ラーメン屋として一番儲かる、ビジネスモデルはどのようになるのでしょうか。儲
かっているラーメン屋で出前をおこなっているところもあります。しかし、出前を

やっていないケースのほうが多い気がしますね。ここで、儲かっていると申し上げ
ましたが、ラーメンや具などの変動費が、売上高に対し20〜25%程度と推定できま

す。通常、1食あたりの原材料費は180円程度ですから、720〜900円/食のメニュー
となります。あとは、一日の客数如何です。重要なのは、経営資源を最大限活用で

きる経営のしかたにかかってきます

 

 

◆物流費はビジネスモデルによって決まる

 

ラーメン屋の最小物流費は、究極のところ、出前有り無しなどのビジネスモデルを
前提として、発生物流コストが決まってしまいます。それ以上は、ビジネスモデル

そのものを変更せざるを得ません。言い替えると、一番儲かるビジネスモデルを前
提に本来の物流費は決まることになります

 

 

◆物流機能のメーカーとの違い

 

ラーメン屋とメーカーでは、物流に於いて若干の違いがあります。ラーメン屋のビ
ジネスモデルでは、出前という物流機能を持たない選択も可能です。反面、メー

カーでは工場で、お客さまに製品提供することが困難なことです

 

観光農場での牛乳、チーズ、アイスクリーム提供や、ビール会社の工場付属レスト
ランなどもあることはありますが…

 

メーカーの多くは、製品を物流経由で顧客にお届けせざるを得ません。つまり、
メーカーである以上、物流なくしては商売が成り立たないのです

 

さて、メーカーに話を転じて考えてみましょう

2.メーカーはビジネスモデルから物流を捉える

◆物流発生コストをさかのぼる

 

物流発生コストを上位にさかのぼることは、2009年4月13日、No.7で一部お話ししま
した。物流発生コストを上位に展開すると、物流決定コストに至る流れが明らかと

なり、経営戦略が結果として物流コストを決めていることが分かると…。さらにさ
かのぼると、経営方針、経営目標、経営理念などとなってきます。次が上位にさか

のぼった例です

 

 物流発生コスト→物流ネットワーク→物流サービス→販売政策→経営戦略

 

物流サービスまでは、納品リードタイムの長短によって、物流拠点の有無が変わり
ますので、話も比較的分かりやすいのではないかと思います

 

 

◆物流決定コストは定量評価で判断

 

販売政策が納品リードタイムを決めているのですが、販売側としても動かしようが
ないと思われるかもしれません。具体的な議論がされていないケースが圧倒的だか

らです。仮に議論されたとしても、何を持って善し悪しの判断をするのでしょうか。
これが、ビジネスモデル案別に定量化の必要性が出てくるゆえんです

 

 

◆デルに見る物流ビジネスモデル変革

 

物流変革の代表例に、コンピュータメーカー、デルの事例があります(自身はプロ
バイダーと称す)。2007年1月期決算の売上は約570億ドル(約6兆5,550億円)です。

デルの直販は、米国において1996年7月、インターネット「オンラインストア」開設
に始まります。それまでは、販売店の店頭で品定めのうえ購入するのが当たり前で

した。日本も同様です

 

 

◆日本の直販比率は世界一

 

国内では、翌1997年3月から業界初の「オンラインストア」による直接販売を開始し
ました。パソコン業界に与えた影響は大きかったですね。当初は、定着しないので

はと言われました。意に反し、現在は個人向けの約80%がインターネット販売です。
世界の中で最も高い比率となっています。常識は変わるのですね(^0^)

 

 

◆直販選択が画期的・物流費低減もたらす

 

物流費低減を、それまでの店頭販売時代におこなった場合は、どの位の効果が見込
めたのでしょうか。当然、一定の限界が出てきます。しかし、直販という選択が、

物流から見れば画期的なコスト変革をもたらしたのです。少々古いデータですが、
2005年1月期末の在庫日数は、4日と公表されています

 

デルの業績推移を見てみましょう。1996年7月から直販を始めましたので、1995年か
ら次に紹介します。決算期末は1月、単位は百万ドルです

 

 決算期   1995/1  1996/1  1997/1  1998/1  1999/1  2000/1
 売上高   3,475  5,296  7,759  12,327  18,243  25,265

 売上高推移  100   152   223    355    525    727
 営業利益   249   377   714   1,316   2,046   2,457

 営業利益率  7.2%   7.1%   9.2%   10.7%   11.2%   9.7%

 

ビジネスモデルを直販にシフトした効果が、どの位占めているのか分かりませんが、
その後の伸びには著しいものが見られます。成長のインフラを手にしたと言えるの

ではないでしょうか

 

 

◆ビジネスモデルが物流のあり方の根源

 

物流発生コストから、物流決定コストにさかのぼりつつ物流コスト低減を追求した
とします。さらに、販売政策や経営戦略を検討したとしても、先にあるのは現状の

ビジネスモデルに突き当たることが明白です。したがって、ビジネスモデルのあり
方に議論がおよぶ場合があります

 

ビジネスモデルを前提として、現状物流の運用効率を上げることは、多少なりとも
可能かもしれません。しかし、いずれ限界が見えてきます。ただ、物流決定コスト

の必要性を議論することは、ビジネスモデルのあり方を再認識するうえで関係者に
とって有用です。実際は、物流の運用効率よりも、全社の収益向上が重要とされる

ケースが多いと思います…

 

デルの場合、物流決定コストを変革したのは経営方針そのものでした。いわゆる、
ボトムアップ式の上申ではなく、トップダウン式の上意下達(じょういかたつ)で

す。皆さんの企業では、持てる経営資源が十分に活用され、収益貢献度が最大とな
るビジネスモデルとなっているでしょうか。同様の投入努力であれば、より付加価

値の高いほうが望ましい姿に違いありません

 

物流決定コストが先にあるのではなく、あくまでも、あるべきビジネスモデルを前
提として、物流決定コストがあるためです

 

 

◆物流費低減に優先するビジネスモデルのあり方

 

したがって、物流発生コストから物流決定コストにさかのぼる場合、次の段階に沿
う議論を推奨します

 

 

 第1段階 現状ビジネスモデル前提の経営資源の活用策
      物流も経営資源の一つであり、結果として、物流決定コスト

      が明らかになる

 

 第2段階 現経営資源の活用によるビジネスモデルの変革
      今回テーマではありませんが、持てる資源、人、金などの

      経営資源を活用し、新たなビジネスモデルを構築すること。
      いずれ、詳しく触れます

 

 

◆期待されるビジネスモデルの変革

 

一時の価格高騰から戻ってきていますが、資源高騰の影響は残り、長期的に見ると
上昇傾向をたどることでしょう。次回以降の課題ですが、現状のビジネスモデルに

変革が求められています。過去の石油ショックでは、安い原油を前提とした世界の
経済構造に大きな変化をもたらしました。今後の環境変化を正しく予測し、成長が

保証されるビジネスモデルへの変革が、今求められていると信じます

 

 

◆ビッグスリーとビジネスモデル転換

 

先日2009年5月3日、日経新聞朝刊1面左の「自動車は再生するか」の囲みに次の記
事があります

 

『「ビッグスリー」の一角が崩れる時代。従来のコスト構造を温存したままでは日
本が12社体制を維持できる保証もない。ビジネスモデル転換のスピードが問われて

いる』

 

各企業においても、リストラ、業務改革に代表される部門最適、コスト低減に重点
を置く改善・改革から、より根本に迫るビジネスモデルの変革に着手する時期を迎

えている気がします

 

 

最後まで、お読みいただきありがとうございます。
連休明けの復帰ができましたか(^o^)

それでは、次回またお会いしましょう