収益改善に役立つ統制指標の切り口

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 収益改善に役立つ統制指標の切り口
  【現役 経営コンサルタントの裏情報! No.13】

                                         発行 2009/05/25
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【目次】

1.使える管理指標とは

まえがき

こんにちは 前田です!

 

最初に言うのも何ですが、長ーい、長いメルマガです。いつも、短めに、短めに、
しかも読み切りでご理解いただけることを念頭に書いているつもりですが…

どうもうまくいきません。
適度にお付き合い下さることをお願いいたします。

近いうちに、ホームページのほうでもバックナンバーを読めるよう工事を進めてお
ります。訂正が必要な分は、訂正済みで読めるようにします

 

さて、例のごとくインフルエンザから始めます。
新型インフルエンザが問題視され始めたのは、メキシコで本年2009年3月中旬です。

およそ、2カ月経過しました。その後、WHOによって正式に確認発表されたのが、
2009年4月24日となっています

 

さらに、5月23日のWHO発表では症例が12,000人を超えるに至りました。日本でも
大幅に増えています。症状の軽いかたが多いのが、唯一の救いですね

 

皆さんは大丈夫ですか。国立感染症研究所(IDSC、東京都新宿区)の発表のし
かたも先週から大幅に変わりました。今までの重大事態のような発表ではなく、従

来のインフルエンザ並みの扱いになっています

 

これまで採りあげてきた経緯もありますので、前回紹介のデータに本稿記述時点
のWHOサイトの発表を追記します。WHOもようやく日曜日の発表を止めたよう

で、最新版は日本時間5月24日20:00時点の最新版 update 37 です

 

 最初の発表(2009年04月24日)米国とメキシコで感染症例ありの報告
 update 11(2009年05月03日14:00)感染 17カ国、症例  787、死亡20

 update 24(2009年05月10日15:30)感染 29カ国、症例 4379、死亡49
 update 31(2009年05月17日14:00)感染 39カ国、症例 8480、死亡72

 update 37(2009年05月23日14:00)感染 43カ国、症例 12022、死亡86

 

 update 37では、日本の症例321を含みます。時間は日本時間です
 状況報告と地図のURL(地図は1〜2時間後に発表)

 http://www.who.int/csr/don/2009_05_23/en/index.html
 http://www.who.int/csr/don/ah1n1_20090523_8AM.jpg

1.使える管理指標とは

工場の管理指標にはどんなものがありますか?
お尋ねすると、稼働率、歩留まりあるいはロス率、適合品率、ショット数、持ち台

数などと答えが返ってきます

 

管理指標は成り行き任せではなく、求める姿の計画・目標に対し、どのように近づ
けていくか権限を持って管理するツールの一つです。いわば、経営管理の部門内に

おける予実績管理を促進させる役割を持っています。管理指標の定義や作成という
詳細を申し上げる前に、実際の例を見ながら考えて見ましょう

(管理指標に心当たりのないかたは、先に本稿後半の「◆管理指標とは」を参照お
願いします)

 

 

◆実際の管理指標例「ショット数」

 

射出成形機によってプラスチック成型品生産をおこなう工場があります。当該工
場におけるショット数(吐出回数)の例を挙げましょう。工場の射出成形機は

数十台です。24時間稼働をしており、射出成形機全部の1カ月間ショット数合計を
まず求めます。このショット数合計を、成形機合計の総稼働時間で割り、1時間当

たり平均ショット数を算出します。つまり、射出成形機の1時間当たり平均ショット
数が分かります。計算式は次のとおりです

 

 ショット数=Σ射出成形機の1カ月間総ショット数÷Σ射出成形機の

       1カ月間総稼働時間

 

 ex. 射出成形機 20台、1カ月間の20台分総ショット数 100万ショット、
   20台分の総稼働時間 10,080時間/月、

   (平均)ショット数=100万ショット÷10,080時間=99.2回/時間

 

 *ショット数と取り数
  溶いた小麦粉とつぶつぶ小豆のあんこ(溶融した樹脂)をたい焼きの型に

  流し込み(吐出、ショット)、形ができあがるのを待って型からたい焼き
  を取り出します。

  このときの流し込み回数をショット数、一度にたい焼きができあがる数を
  取り数と呼びます(^-^)(好きですね。高校生のとき麦茶を飲みながら

  しっぽまであんこが入ったたい焼きを13個食べたのが、今までの記録です)

 

工場の管理指標として、従来から当該ショット数が使われています。ショット数が
変化する要因は何でしょうか。要因抽出には、意外と時間がかかります。主なもの

を次に挙げました

 

 

◆ショット数変化の要因

 

 ( )内は要因変化の背景と基本業務、次に社内における担当部門を表す

 

 1.販売計画・受注状況
  保有する射出成形機に合う販売計画・受注によって稼働が変化、

  受注状況により射出成形機の過不足発生
  (受注変動、販売力、マーケット環境の変化、営業部門)

 

 2.製品仕様
  図面(顧客からの受注生産時)、樹脂の配合、寸法公差、加工要求精度

  (製品設計・開発、設計・開発部門)

 

 3.射出成形機そのものの性能と保守
  成形機の自動化、保守によるショット数への影響度

  (設備技術、技術・保全部門)

 

 4.金型仕様
  取り数とショット数増減、サイクルタイムの長短

  (金型・治工具設計、技術部門)

 

 5.生産計画の組み方
  段取り替え、生産ロット、生産順序などが稼働時間に影響

  (生産計画業務、生産管理部門)

 

 6.使用原料の納期・品質
  原料の品質不良、在庫切れなどによる稼働時間への影響度

  (原材料の調達管理、資材・購買部門)

 

 7.作業現場の稼働管理
  不良品の発生等、現場の作業のしかたにより稼働状況に変化

  (作業・製造・品質管理業務、製造部門内の職場)

 

ショット数変化の要因は多いですね。射出成形機の作業現場から見ると、実にさま
ざまな要因が影響して製品製造に至っているものです。販売、設計・開発、製造、

生産管理などのチームワーク(=業際間課題を解決する統制)のなすワザで競争力
が決まっています。現実には、これら全部の要因が同一時期に変わることはないで

しょうが…(^−^)

 

射出成型品は、受注生産が割に多い製品かもしれません。そのため、受注生産だか
ら販売計画が組めない、生産余力があったとしても稼働率を上げる方策がないとの

声もよく聞かれます。現に、小生のセミナー出席者にも、同様の意見を言われるか
たが見られます(おおむね、部・課長クラス以下の現場に近い部門のかた)

 

 

◆繰り返し生産品の割合

 

果たして、本当にそうでしょうか。射出成型品に限りませんが、受注生産品を対象
に3年分程度、販売実績を分析してみれば、違う世界が見えてくるはずです。

繰り返し受注生産品の割合は、意外に高いものです。通常は7割程度と推測してい
ます。製品全体の形は同じでも寸法が微妙に違う、原料配合が異なる、形がほんの

少し違うなど、生産のしかたから見た変化の度合いが問題となります。
一見異なるものの中から同質を見出す、一見同じものの中に異質を感じ取ることが

重要です(=^^=)

 

 

◆ショット数に責任持つ職位の明確化図る(結論)

 

実際の管理指標例としてショット数を挙げましたが、詳細に検討すると関連部門も
多いことが分かります。ショット数に増減があった場合の真因解析は欠かせません

が、本来は単一の職場や部門の責任でコントロール可能な指標にすべきです。
仮に、ショット数を指標として使う場合でも、どの部門あるいは職位の管理指標と

すべきか悩むところです

 

 

◆重みづけによる指標化

 

ショット数自体の管理指標化は議論のあるところですが、あえて使うことを想定し
た場合の考えかたを紹介します。既述のショット数変化の要因では7項目に区分しま

した。まず、ショット数増減に影響を与える要因に重みづけをおこないます。7項目
への重みづけ合計が100です(重みづけは合計1.0とすることが通常)。たとえば、

ショット数変化の要因と重みを次のとおりとします

 

(真因不明時のショット数変化への部門責任度合い)

 

 1.販売計画・受注状況(営業部)…現状是認              0
 2.製品仕様(開発部)…現状是認                    0

 3.射出成形機の性能と保守(技術部)…改善余地ありとして   20
 4.金型仕様(技術部)…改善余地ありとして             20

 5.生産計画の組み方(生産管理課)…専用機のため         0
 6.使用原料の納期・品質(資材課)…影響度が大きいため     20

 7.作業現場の稼働管理(成形係)…実稼働の効率化責任として 40

 

ショット数変化の真因が分かる場合は、実際の重みに応じて各部門の評価をおこな
います。不明なケースでは、ここで決めた重みづけにしたがって評価をするわけで

す。単に数量を把握し対策立案するのではなく、製造原価と営業利益の変化を知る
ことが欠かせません

 

どんな考えで重みづけしたのか、記録しておくことも不可欠です。管理指標の改定
時に必要となります。本ケースでは、販売、製品仕様、生産計画の組み方を重みゼ

ロとしました。置かれた環境から、変えられない要因(=与件)としたからです

 

 

◆管理指標の想定運用

 

実際どのように活用されているのかお聞きすると、次のような運用が多いですね
(^^)。もちろん企業によってまちまちですが…。順番は次のとおりです

 

 ・年度目標設定(年次計画、Plan)
 ・現場等で実施(実践、Do)

 ・予実績差異の把握(日次・週次・月次の予実績評価、Check)
 ・差異要因解析と課題抽出(差異要因解析、Act)

 ・対策立案と目標設定(目標を持った改善案作成、Plan)
 ・進捗会議等への報告(報告と承認、承認を持ってPlan完成)

 

まともに運用している企業が多いなあ…と一瞬感じます。しかし、入念にお聞きす
ると、実態は次のようなケースのほうが多いんです(∩_∩)

 

 

◆管理指標の実際運用

 

(世間の大半がそうです!)(やるべきことが残っています!(^-^))
 ・製造原価低減に対する各指標の影響度が不明

 ・単位管理指標の変化と製造原価・利益の関係不明確

 

(わりとまとも!)(^o^)
 ・量・品質対象に差異分析と対策をおこない継続観測している

  次の段階に進み、製造原価と利益の関係を明確にすることが課題

 

(一工夫必要)(−_−)
 ・差異の解消策を検討したが対策が分からない

  よくお聞きする事例です。差異分析が難しいのは管理指標の作り方
  に問題があります

 ・改善したはずなのに指標の数値に反映されない
  良くあることですが、管理指標の作り方を変えることが必要。

  また、製造原価に反映されないケースもあります
 ・管理指標の重要度がはっきりしない

 ・管理指標の運用手順が不明瞭
 ・管理指標のない現業職場がある

 ・資材・生産管理等の業務部門に管理指標がない

 

(問題外)(涙)
 ・管理指標が集計されないこともある

 ・単に集計・報告で終わっている
 ・稼働率などの指標はあるが指標達成の責任所在不明

  指標に責任持つ職場・職位が不明瞭なケースも同様
 ・自部門・職場でコントロール不能な管理指標がある

 

(業績評価に問題)(−_−)
 ・指標運用の結果が、職場や個人業績に反映されない

 

 

◆大多数企業の共通項

 

 ・管理指標は量管理中心で設定
  ex.歩留まり 93%、ロス率 4%、廃棄率 1.5%、稼働率 87%

 

 ・製造原価・営業利益への定量的な影響度が算出されていない
  ex.歩留まり 93%→94% のときの製造原価は?

 

 ・職場や部門単独ではコントロール不能な管理指標がある
  ex.資材部門の発注ミスで生産が一時ストップしたので、

   現場の稼働率低下を招いた

 

 ・工場の権限でコントロールできない管理指標がある
  ex.工場の操業日数、受注変動による特定設備の稼働率低下

 

 ・工場の付加価値を向上させる課題が管理指標化されていない
  ex.生産余力の活用、休眠設備の活用、内外製率、工場別の生産配分

 

 ・管理指標間のトレードオフ関係が不明確
  ex.生産性向上と稼働率向上

 

 *トレードオフ
  一方の案が成立すると、他方の案が成り立たない関係。二者択一の

  選択が必要となります

 

今回は、工場を中心に管理指標を取り上げていますが、営業・物流などのライン部
門に共通する事項は多いものです。遅ればせながら、管理指標とは何であるか、目

的とするところについて述べることにします

 

 

◆管理指標とは

 

管理指標とは、対象業務・作業全体の運用が適切かどうか判断する物差しあるいは
業務効率の測定基準をいいます。部門あるいは部門内の運用が適切かどうか判断す

る物差しのことです。言い換えると、部門運用効率の測定基準を指しています

 

この点において、売上高営業利益率など経営効率を見るための経営指標、また全社
最適を実現する視点からの統制指標とは異なっています。対象を直接確認せずに、

代替えの指標で状況を知ろうとするので「代替指標」の一種です

 

運用状況の把握には、現場を見る、業務の流れを伝票で確認するなど「実データ」
でも当然できます。しかし、実データでは生の実態を味わえることと裏腹に、手間

暇がかかり検証の専門性が不可欠です。そこに、指標化の大きな意味があります。
機会損失が多く発生しがちな領域については、対策しやすい算出時期と頻度に考慮

が必要です

 

指標の数は、一工場で10以内など多くしないことがポイントでしょう。管理項目は
少ないに越したことはありません。管理指標は、絶対値的なものと、経時・経年の

変化を見る相対的なものがあります。絶対値的なものは少なく、ほとんどは相対的
な指標が占めると思います。また、社内の階層に応じて使用目的が変わりますので、

作り方にも変化が生じます

 

 

◆管理指標の目的
 ・運用状況を指標で表し、対策を講じやすくする

 

 

◆管理指標設定の目的
 ・機会損失の発生を事前に防止する

 ・部門内の予実績管理推進に寄与する

 

 

◆管理指標作成時に網羅すべき項目

 

 ・管理指標名
 ・目的

 ・作成方法
 ・算出方法

 ・基準値
 ・作成頻度

 ・作成担当部門・担当者
 ・報告先

 ・指標変化時の対処策
 ・単位指標当たりの製造原価・営業利益

 

それでは、実際に管理指標を設定する手順はどのようになるのでしょうか。
メーカーの工場部門を対象に指標設定の概略手順を紹介します

 

 

◆管理指標設定の主な手順

 

 1.管理指標の候補抽出
  次のような例を参考に管理指標の候補を抽出してください

 

  生産効率や歩留まり向上・製造原価低減に寄与する要因、生産設備・
  治工具・金型に関する生産性向上に寄与する要因、上述ショット数変化の

  要因例

 

  また、指標変化時の対処策立案には、上述ショット数変化の要因で挙げた
  項目を参考に課題を抽出します

 

  管理指標抽出のポイントは、職場あるいは部門単位にコントロール可能な
  権限と役割分担が明確化されることに尽きます。定性的な管理指標もケース

  によっては必要です

 

 2.要因定量化の算出式設定
  管理指標候補の算出式を設定します。この段階で、用語の定義が必要

  となるケースが出てきます。従来の社内用語にこだわらず定義を明確に
  して使用してください。

  用語定義が必要となった場合は、忘れずにマニュアル化します

 

  *算出式は、変数となる要素の数が多くなるように区分することが
   ポイントです。具体策の検討時に有効となります

   ex.指標A=B÷C → A=(b÷d)×(e÷c)

 

 3.管理指標候補の試算
  問題は算出に必要なデータが得られるか、あるいは実際に計算が可能かで

  す。前項と行ったり来たりの試行錯誤が出てきます。日常的に算出データ
  が取れるか確認が必要です

 

 4.製造原価の算出
  管理指標設定の候補となった要因の製造原価に対する影響度を試算します。

  これによって、コストと収益から見た重要度が確認できるでしょう。
  本稿では触れていませんが、直接原価計算などの管理会計導入がインフラ

  として整備される必要があります。とくに、収益の変動算出には不可欠で
  す(詳細は、いずれご紹介予定)

 

 5.管理指標の設定
  重要度の高い要因を優先的に管理指標とします。つぎに、設定した管理指

  標を組織図に合わせてツリー状に位置づけ(体系化)し、工場管理に必要
  な項目の検討により、漏れが出ないように追加します

 

 6.運用案作成
  いずれ、ご紹介したいと思いますが、役割分担マップの作成が有効です。

  いわゆる、指標の運用マニュアルに相当します。原則として、毎年改定が
  必要です

編集後記

ここ一カ月間あまりの間に、各企業の上層管理者のかたとの面談、マスメディアの
報道吟味により、ビジネスモデルの変化が確実に起こっていると感じています

 

ビジネスモデルとは、マーケットへの働きかけによって得られる事業収益が、どの
ような事業遂行の基本業務と流れから実現するのか表す事業構想のことです

 

もう少し平たく言えば、会社の利益はなぜ得られているのか? この構造を表した
ものがビジネスモデルです。直近で言えば、日経新聞一面でも何度か報道されてい

ますが、三菱化学の一部事業撤退、エチレンプラントの他社との統合などが実例と
して挙げられています

 

ビジネスモデルを実際に描こうとすると、意外に難しいものです。
今の事業は、なぜ儲かっているのですか?

皆さんの企業に当てはめると、答えはどうなりますか ^-^

 

普段あまり考えないことでしょうが、原点に戻って考察することは決して無駄とな
りません。ぜひ、挑戦してみて欲しいと思います

 

長ーいメルマガを、最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、次回またお会いしましょう