収益改善に役立つ統制指標の切り口

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 収益改善に役立つ統制指標の切り口
  【現役 経営コンサルタントの裏情報! No.8】

                                         発行 2009/04/20
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【目次】

1.テポドン2号とインテリジェンス機能
2.業際間課題としてのクレーム削減課題

1.テポドン2号とインテリジェンス機能

こんにちは 前田です!

 

今日は、連日マスメディアをにぎわしている、北朝鮮のミサイル発射問題から日本
政府の対応を題材に、企業内の課題へと考えて見ましょう

 

 

◆北朝鮮のミサイル発射問題

 

北朝鮮は4月4日以降、人工衛星打ち上げを予告しました。翌5日、弾道ミサイル、テ
ポドン2号を発射。結果は失敗と理解されています。その後、連日マスメディアを

にぎわし、4月13日午後(日本時間14日未明)には、国連安全保障理事会で北朝鮮へ
の議長声明が全会一致で採択されました。声明骨子は、06年決議に違反した発射を

非難、同決議の義務履行を要求、再発射の自制、6者協議の早期再開を要請等です。
その後、北朝鮮は6カ国協議への不参加、核施設の原状復旧を打ち出しています

(あの国のやることは理解できませんね)

 

 

◆日本政府のインテリジェンス機能

 

ミサイル発射に関連し、日本政府のインテリジェンス(情報収集能力)機能の問題
点が明らかになっています。4月2日の日経新聞、夕刊6面に次の記事があります

 

「国際的に見ても日本の電波傍受の能力は高い水準にある」
「(防衛省)情報本部の職員は2千人強だが、7割が電波傍受にあたる電波部や各通

信所の職員」
「しかし、政府全体のインテリジェンス機能の評価は(国際的には)高くない」

 

 

◆誤報に見る連携不足

 

4月4日、防衛省はミサイル発射の誤報を2回発表。インテリジェンスの議論以前の問
題ですが、夕方には浜田防衛相が誤報を陳謝するに至りました。政府の情報伝達態

勢の不備が、日経記事の2日後タイミング良く(?)明らかになったできごとです

 

政府内で情報収集をつかさどる会議体と機関は複数あります。内閣の合同情報会議
(86年設置)、内閣情報会議(98年設置)、内閣情報調査室、警察庁警備局、外務

省国際情報統括官組織、公安調査庁などです

 

日経記事によると、インテリジェンス機能が高くないのは、政府情報機関の連携に
問題ありと主張しています

 

 

◆インテリジェンス機能とは

 

インテリジェンスを上段では情報収集能力としました。しかし、本質を一番よく表
すのが、戦前の陸軍参謀本部が使っていた「秘密戦」であると言われます。国家間

の情報が飛び交う中で、情報活用で国を守ることが本質です。したがって、情報の
収集・解析能力に問題ありと思われるケースは論外と言わざるを得ません。今回の

誤報は、緊急時への対処能力の貧弱な実態であろうと思います

 

 

◆連携とは

 

目的の同一解釈、目的遂行のシナリオ明確化、シナリオ実行の役割分担、シナリオ
実行に権限を持つ統制部門設置と指示機能があって初めて、政府情報機関の連携が

可能となるのではないでしょうか。もう一つ、土台となる徹底的な人材育成が課題
です。組織間の壁が厚い場合は、連携を考えるよりも関連機関を目的から見て再編

成したほうがいいかもしれません

 

 

◆明治時代はインテリジェンス機能が高かった

 

政府のインテリジェンス機能が高くないというのは現在のことです。弱くなったの
は、戦後、安全保障のアメリカ依存が大きいと識者の間では一致しているようです。

明治時代には、外交において高度なインテリジェンス活動をおこなっていました。
本来、軍事小国であればあるほどインテリジェンス機能の強化が必要なのに、現状

はそうなっていません

 

 

◆東京は天国

 

まるで映画のようですが、東京は各国の諜報機関が大手を振って活動していると以
前から言われてきました。情報も容易に入手可能であり、日本発の情報で自国のイ

ンテリジェンス機能強化に貢献しているとも言われます。しかし、政府自身のイン
テリジェンス機能は弱く、人材育成も不十分です

 

インテリジェンス機能に関して、小生はまったくの門外漢ですが、一連の北朝鮮ミ
サイル発射問題を見て感じたことを述べさせていただきました。これらの記事を見

ながら、企業内に置き換えても同様なことがあるような気がしてなりません

2.業際間課題としてのクレーム削減課題

日本の電波傍受の能力は、世界的にも高い水準と言われます。しかし、政府全体の
インテリジェンス機能は高くないのです。国レベルでの、今後のあり方を論じられ

る立場にありませんが、企業においてはどうでしょうか。個別部門の能力は高いも
のの、全体としては最適化(企業収益力に反映)されていないことが該当します。

この視点から見ると、過去お手伝いしてきたいろいろな事例があります。クレーム
削減をテーマにお手伝いした例を紹介しましょう

 

 

◆クレーム削減テーマ

 

社内でクレーム削減の活動を継続してきたものの、一向に減らない実態に苦慮して
いた企業がありました。この企業で、クレーム削減の例を挙げることにしましょう

(企業実態等は、都合により若干加工しています(陳謝))

 

 

◆企業概要と物の流れ

 

売上高1500億円強、営業利益率7%、従業員数・約2500名の住宅機器メーカーです。
住宅機器に限らず、建材やインテリア製品も同様ですが、最終的には施主渡しの時

点で「完成品」となります。メーカーからは直販、代理店経由であっても、多くは
現場に直接搬入され、施工工事後に施主に引き渡されます

 

 

◆クレームの大半が施工工事中に判明

 

施主から見れば、引き渡し後、使用可能となった時点で製品・商品となります。
クレームの大半は、現場に現品搬入後の検査時、施工工事途中、工事完了検査時に

発見され、とくに多いのが、施工工事途中です。クレームには、キズ、欠け、割れ、
打痕(だこん)などがあります

 

 

◆クレームが一向に減らない取り組み状況

 

私どもがお手伝いする前、社内では過去4年間クレーム削減に取り組んでいました。
クレームによる発生金額は、年間10億円弱にものぼります。品質保証部も、社長直

轄部門として1年前に設置しています。しかし、クレームは一向に減らないとのこ
とでした

 

 

◆主な調査判明事項

 

・施工現場でクレーム発生後、現品確認せずに差し替えている
 急を要することが多いため、営業担当が現場で現品確認せずにクレーム報告書を

 記載。ルールでは現品確認のうえクレーム報告書を記載することになっています

 

・工場出荷後から現場搬入に至るクレーム発生の時点が不明
 ex.工場出荷時にすでに欠けがあった?、トラックからの取卸し時?などが不明

 

・クレーム発生の真因が大半不明
 クレーム製品は、十分な再包装をされずに工場に返送されます。返送時にさらに

 キズなどが発生している可能性も捨てきれません。工場では、担当員の検査後に
 営業とは別に報告書が作成されます。結果的に、どの部分がクレームとなったの

 か確認できないこともあります

 

・クレーム真因不明が大半のため、品質保証部からの指示が出されることは少ない

 

・過去4年間の取り組みでは、クレーム実態の報告にとどまっていた(本当?)

 

 

◆クレーム処理は業際間課題の典型例

 

業際間課題とは、複数部門が共同でおこなうべき課題であり、部門横断の最適解が
必要な事項を指しています。全社の収益改善に寄与する観点から判断が求められる

ことが多いのも特徴でしょう。クレームの大半は、施工現場での発見です。しかし、
クレーム発生の領域は、製造時から施工現場に至る流通過程全体に潜んでいます。

クレーム処理は、複数部門に渡る典型的な業際間課題なのです

 

 

◆昔はこんなにクレームは多くなかった

 

調査過程で、気になることを何度も耳にしました。過去の数値は不明だが、昔はク
レームは少なかった。クレームが発生しても再発することは少なかった。クレーム

で苦しんでいる今の実態からすれば、うらやましい限りです

 

気になり、さらにお聞きしました。プロジェクトチームリーダーでもある技術部長
いわく、昔とはこういうことでした

 

入社してから約30年間、技術、各地の工場、営業等、いろいろな職場を経験してき
た。施工現場でクレームがあったり、営業上で製品の問題が出てくると、製造上の

どこに問題があるか当時は想像できた。分からないときでも、製造や技術の誰に頼
めば何とかなるはずと思っていた。現に、それでうまくいっていたと思う

 

ところが、今では製造は製造、技術は技術、営業は営業と同様の職場にいることが
多く、製造・営業間での異動はまれという。たまに、営業畑の人が工場に異動して

も、内容が分かる前にまた異動してしまうとのことです。つまり、営業から製造に
至る領域を全般的に知っているかたが、いなくなってきたことを意味しています

 

売上の急成長にともなう組織の拡大があり、人事交流に困難さが見られるようになっ
たこと。新技術の導入による専門性が進展し、専門領域外に手を出しにくくなって

きたことも背景と思われます

 

 

◆ポイントはクレーム発生の真因把握

 

品質保証部が有効な手を打てないのはどうしてでしょうか。品証部長のお話しです

 

・クレーム発生時に現品確認がされていないのは分かっている

 

・そこで、営業に現品確認の指示を出そうとした。しかし、毎日夜遅くまで今も仕
 事しており、これ以上の負担をかけられない。指示したとしても守れないだろう

 

・返品の検査結果を見ても真因が特定できていない。中には、正常な製品もあった

 

・クレームの真因が分からない以上、有効な指示を出せない

 

・出荷から現場搬入までの実態も調べたが、荷扱いは丁寧だ

 

・出荷時にクレーム要因があったのではないか。製造での検査をもっと厳しくする
 べきではないかとも考えている

 (この件については、製造から後日反論されていますが、調査によるとクレーム
  の原因となるキズ等が検査を逃れて流出していると確認されました)

 

結論としては、どこでクレームの原因が発生しているのか分からない以上、指示も
出しようがないということです

 

 

◆クレーム原因の領域を3区分

 

仮説として、クレーム原因となる発生領域を次の3つに区分します

 

 1.製造から出荷時までの領域
 2.出荷後から現場搬入に至る物流領域

 3.現場での開梱から施工工事、工事完了までの領域

 

 

◆製造領域の対応

 

1の領域では、クレームの原因となるキズ等が検査漏れで流出していることが判明。
原因は、製品の最終検査後から出荷に至る工程が距離的に長く、この間でキズ等の

発生があったことによります。この部分は、早急に改修工事をおこないました。ま
た、製品検査のしかたも、クレーム品を外部に流出しないように強化しています

 

 

◆物流領域の対応

 

一番やり玉に挙がっていたのが、2の領域です。そこで、物流過程で製品にキズ等が
発生しないように包装強度を上げることにしました。現状の物流実態を是認し、包

装に必要な強度を知るため、衝撃加速度計を製品と同梱させ輸送テストを繰り返し
たのです。この衝撃加速度計は優れもので、3軸からの衝撃を連続的に計測し、あと

でパソコンでデータ分析できます。高いのが難点ですが(笑)

 

得られたデータから、さらに安全係数を見込んだ包装設計をほどこし、順次、新包
装に切り替えることにしました。結果は、大幅なクレーム削減につながっています。

これから言えることは、クレームの原因が、製造流出と物流過程にかなりあったこ
とを意味します

 

ここでのポイントは、包装費の上昇を抑えることです。通常、包装強度を上げるこ
とと、コスト低減は矛盾します。知恵の出しどころですね。結果はコスト低減も実

現できたのです。紙面の都合もあり、本稿での紹介は割愛しますが、包装に要求さ
れる機能に過不足なく対応できる包装設計ができるかにかかっています

 

 

◆施工現場の対応

 

クレーム削減の決め手は、やはり真因把握が不可欠です。ただ、営業の忙しさ、現
場での急な対応等から、クレーム報告書を現品確認後に作成することは事実上無理

と思われます。実際に取った対策の主なものだけご紹介します

 

・工事業者への製品知識、工事仕様の再教育
・クレーム品の取り扱い方法改訂

 (現場で回収する再包装仕様の是正、現場に最も近い物流拠点にクレーム品搬入
  とクレーム報告書の作成 等)

 

 

◆製品設計部門へのフィードバック

 

競合他社品との仕様比較、工事業者の意見、クレーム発生後の現品確認等から、製
品設計そのものの変更が妥当と見られるものもあります。同時に、製造しやすい、

検査しやすい、施工しやすい設計と、必要に応じた治工具の開発も指摘されていま
す。いずれも、デザインレビューへの反映が必要です

 

 

◆残された組織的運営

 

各種マニュアル類への反映も済んでいます。しかし、クレーム処理に関する組織的
運営をどうするかという点については、当初から対象外とされてきました。コンサ

ルティング終了後、従来の品質保証部は組織変更により、なくなったと聞いていま
す(実質、機能していませんでした)

 

今回のお手伝いは、クレーム削減を技術的な面から支援するのが要請された狙いで

 

クレーム処理という業際間課題をどのように全体最適の方向に舵を切るのかという、
根本的な部分には触れておりません。たとえば、品質保証部が、なぜ機能しなかっ

たのか、機能する組織の作り方とはどうするべきかです。当社のクレームに相当す
る課題は、まだまだ多いように感じています。似たような経緯をたどって、また別

の課題に取り組むことになるでしょう
(すでに、別なコンサルタントが別件でお手伝いしています)

 

 

だいぶ、長くなってしまいました。最後まで、お読みいただきありがとうございま
す。また、次回お会いしましょう